「今日は私が料理作るね」
そう、微妙そうな表情の明王に宣言して、買いたてのエプロンを身に着ける。いつもいつも明王に料理を作ってもらうのは申し訳ないし、私も明王の笑顔が見たいもん。よーし、頑張るぞ。なんて、最初は意気込んでいたのに、いざ包丁を持ってみたら、ニンジンの形はバラバラだし、玉ねぎにもあっさり敗北。やばい。もしかして私って思ってた以上に料理のセンスないのかも…!どうしようと思って明王のほうをチラ見してみると。
「やっぱりなあ。こうなると思ったぜ」
わざとらしいため息をついて、さっきまでテレビに夢中そうに見えた彼が腕まくりしながらキッチンにへと足を運んでくれた。
「で、でも!私だって肉じゃがくらいなら作れるだろうって思ったんだもんー!」
「ま、実際作れてねぇし?」
「うぅ…!」
「あー、今のは冗談だからさあ、その…」
一緒に作ろうぜ、不器用な彼が精一杯の優しさを私にくれる。それだけでこんなにも心が満たされるなんて。
「名前は肉と野菜炒めてろよ。オレが残りの玉ねぎ切ってやるから」
「あ、うん!」
炒めるくらいなら私でも大丈夫だ。さっそく油を用意してフライパンに流し込む。じんわりとフライパンが温まってきたら、まずはニンジンを投入。そのとき、後ろで規則正しい音をさせて野菜を切っていた明王が、その仕事を終えたらしく、私の後ろからひょこっと、鍋の中身を覗き込んできた。
「焦げねぇようにしてくれよな?」
「わかってるよ」
まったく、さすがにそこまで下手じゃないんだからね!ちょっとムッとしつつ、お肉を入れようとしたときだった。
「…っ、あつっ!」
「!名前!」
不意に油が私の手に跳ねた。慌てて手を引っ込めたけど、指先が少し赤く腫れている。これ以上酷いことにならないように、絆創膏とか探さないとと思った瞬間。ぐいっと明王に手首を掴まれて、蛇口の流水に押し当てられた。
「バカかお前!怪我でもしたらどーすんだ!」
冷たい水に満たされながら、油が跳ねた箇所と明王に握られている部分が熱い。明王の方を見てみると、怒ったような表情で私の手を眺めていた。
「ごめん」
「…別に」
「ありがとう」
「……フン。もうちょっと冷やしとけよ」
水に濡れたタオルを差し出してくれながら、ぶっきら棒に彼は言う。
「やっぱ今度からオレが作る」
「ダメだよ!明王ばっかに頼ってちゃダメだもん」
「で、また怪我したらどーすんだ。名前ちゃんよぉ?」
「うぅ…!」
何も言い返せない。料理してもきっとまた明王に迷惑をかけてしまう。
「じゃあ、次からさ」
オレが料理教えてやるよ。
ポンッと頭に明王の大きな手が置かれて力加減無しに撫でられる。髪がどんどん乱れていくけどこれも彼なりの優しさだから。未だに触れ合っている手のぬくもりを感じながら、明王にもたれ掛かった。
「ありがとう、明王」
―――――
熱々さまに提出
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