小さいころからいつも一緒に遊んでいた。親同士仲が良くて、ご近所だからクリスマスも一緒にはしゃいでいたし、もちろんバレンタインも毎年チョコレートをあげていた。
中学に入ってからは彼は部活熱心だし、クラスも離れ離れ。途端に話す機会はなくなってしまった。そんな彼に今年のバレンタインはどうしようか悩みつつ、私のことなんてただの幼馴染程度にしか思ってないのかなと自然とため息が漏れる。
まあ、いらないって言われたら、自分で食べるかお父さんにあげればいいし、作るだけ作ってみようと私は材料を買いにスーパーに足を運んだ。



バレンタイン当日。一郎太のクラスに朝一で入って、彼の机の前で数分、立ち止まっている私はもしかしたら不審者っぽいかもしれない。いや、でも鬼道くんほどではないと思うけど。
靴箱にチョコを入れるのはさすがに憚られた。だからといって直接手渡しは恥ずかしすぎる。そんなわけでチョコ片手に悩んでいた。
このチョコを机の中に入れられれば私の勝ちだ。さっさと入れて早くここを出よう、そう思って彼の椅子を引いたその瞬間。


「……あれ、名前?」


ガタッと音を鳴らして開く教室のドア。必然的にそれに目をやるとバッチリ彼と目が合う。えええ、なんで!一郎太、来るの早すぎでしょ!
そして彼は驚いたような顔をして言葉を発した。まずい、ほんとうにやばい。直接は渡したくなかったから、チョコだけ机に置いて一郎太と反対側のドアから脱出しようとしたけど、肩を掴まれて無理だった。


「これって、オレにくれるのか?」
「…その、つもりだけど。いらないなら返してくれていいよ」
「いらないわけないだろ。せっかくお前がくれたものなんだからな」


ふにゃって優しく微笑む彼は以前と全く変わっていない。それなのに、少し避けるようなマネをしなければよかったと後悔。
掴まれていた手が緩められて、互いに向かい合う。あ、一郎太の顔を近くで見るの、凄く久しぶりだな。


「名前と話すの久しぶりな気がする」
「…うん」
「コレ、ありがとう」
「うん」


ちょっと気まずい雰囲気。ちらっと彼の方を見ると、じっと私の方を見ていた。


「名前、」
「…ん」


至近距離で頭をなでられる。彼の優しさに思わず顔が綻んだ。


「なあ、いま食べてもいいか?」
「いいよ」


そうか、と嬉しそうに飾った包装を丁寧に剥がしていく。彼にあげたチョコ、定番のトリュフだけど私が愛情だけはたっぷり注ぎこんだそれをみて、今日一番の笑顔を見せてくれた。


「一郎太の口に合うかわかんないけど」
「名前が作ったんだから美味いに決まってるだろ」


いただきます、ぱくっと一口。そしたら彼はにこりと笑って、ほら美味い、と言葉にしてくれた。


「一郎太」
「ん、どうした?」
「ふふ、ありがとう」


彼につられて私も笑顔になる。やっぱり私の元気の源は一郎太みたいだ。



「名前も食べるだろ?ほら、あーん」
「あ、いや…私はいいよ!」
「?こんなにも美味いのに」
「(昨日食べすぎて気分悪くなったとか口が裂けても言えない…!)」




―――――

実はチョコに媚薬が入ってました!みたいな展開にしようと思ったけど純粋な話が書きたかったので諦めました。
ハッピーバレンタイン!



120214
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