「……てめえ」
オールバックの金髪。
見上げる長身。威圧感のあるガタイ。
胸元が真っ赤に染まったシャツを指先でつまんで、ど迫力の眼力で俺を震え上がらせる。
泣く子も黙るという、恐ろしき姿。
みんな、青い顔で見て見ぬフリだ。
それもそのはず。
なにせこの人は、悪名高き大ヤクザの息子、東虎雄(あづま・とらお)先輩なのだから。
金の虎と、センチメンタル。
「どうしてくれんだよ……」
「ごめんなさい、俺、俺……」
俺が握りしめている容器の口から、どろどろっとケチャップが溢れる。
事件現場は、食堂だった。
『ご自由にお使いください』
呪いの言葉が書かれたケチャップを手にとり、口を開け、まさにフランクフルトにかけようとしていた時。
「いよー!街村(まちむら)っ」
クラスメイトに肩を叩かれ、悲劇は起きた。
体、横方向にかかった力は、俺――街村基(まちむら・もと)をたやすくよろめかせ……運悪く、通りがかった人影にどっかとぶつかった。
一瞬、クラスメイトの悲鳴が聞こえた気もする。
握り締めたケチャップは、俺の手を赤く染めて――さらに、染めてはいけないものも染めていた。
「……てめえ」
……冒頭に戻る。
降ってきたのは、ドスの聞いた声だった。
ノーネクタイで第二ボタンまで開け、みしっとした筋肉の谷間を覗かせている白シャツの胸元に、ベッタリとスプラッタな光景が広がっていた。
振り仰いだ姿は、校内でぶつかりたくない人間ランキングをつけたら、2位以下を圧倒的に引き離して1位に輝くであろう、東先輩だったのだ。
関東で一番大きなヤクザを親に持ち、学校では常に取り巻きに囲まれ、坊っちゃんと呼ばれている。
どっと冷や汗が出た。
「ごっ、ごっ、ごごごご……」
「あ?」
凄まれて、ひくっ、と喉の奥が引きつる。横目で、諸悪の根源を探すと、逃げ足早いクラスメートはとっくのとうにとんずらしていた。
「ぼっちゃんに何してくれんだ、おまえ」
東先輩の取り巻きの何人かが、同じように凄んできて、膝が震えだした。
お、俺、これからどうなるんだろう。東京湾に沈められるのか……!?
そう思ったら、ふっと気が遠くなった。