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 教師。
 先生。
 教諭。

 学生。
 生徒。
 高校生。


 いろいろ呼び方はあるけど、どれも形と字面だけ。
 俺たちをひとつの形に押し込めて、物を言わせなくするためのシステムなんだ。

 『先生』なんて言葉じゃ、とてもこの人を表すことはできない。
 この人は、世界に一人しかいないのに。


 確かめるように頬に触れると、伏せていた目が俺を見た。
 眼鏡を通さないで見るその光は、きれいで、強くて、怖い。
 がじと小指を咬まれて、慌てて手を引っ込めると、いたずらっぽく細めた眼差しが降ってくる。
 こんなに近くにいるのに、まだ、この人に触るのには緊張する。
「……何か言いたげだけど」
「後悔……してるかな、って」
「……なにを?」
 訊き返されると思ってなくて、返事に困った。
「俺が、おまえの先生になったこと? それとも……こういう関係になったこと?」
「っ、わ――」
 急に動かれて、押し上げてくるお腹をとっさに両手で押し返す。
 掌に感じたその腹筋が、ぐっと張り詰めて、また慌てて手を引っこめた。顔が熱い。
「せっ、せんせ……っ、ダメだよ、これ、すご……っ」
「……教師が感じちゃいけない?」
 考えが読まれてるみたいだ。
 探るように動かれて、背中が浮く。
「どこ?」
「やっ、ぁ」
「言いなさい。気持ちよくしてあげるから」
「や、やだ、先生みたいに言うな……っ」
「先生だよ、俺は」
 息を詰めて、おずおずと腰を動かす。自分で体の中の熱を望む場所に誘った。
「ここ……?」
 確かめるように動かれて、女の子みたいな声が出る。
 微かに笑った気配がして、大きな手が腰を包んだ。

 “今が良ければいい”
 そう割り切るには、先生は、俺にとって特別過ぎる。
 それに気づいたのは、引き返せないところまで来た後だった。
 後悔してない。
 でも、先生は、きっと後悔してる。
 いつも苦しい顔をしてるから。

 どろどろに溶けかかった頭の片隅で、微かな声を拾う。なんとか目をこじあけて、その顔を見つめた。
 触れるか触れないかの距離で、綺麗な唇がぽつりと言う。
「……すごく、後悔してる」
「え」
「もっと違う形で、会えればよかった」
 言われた途端、涙が込み上げた。
「ぅ」
「今更だよな。どうしようもないし」
「っ、ぇ……っ」
 情けない声が出て、どんどん涙が溢れてくる。
「泣くくらいなら、はじめから訊くなよ――」
 先生は、困った声でなだめるようなキスをくれた。
「……嫌になったら、俺から離れればいい。追いかけて困らせたりしないから」
「やだ、なんでそんなこと言――」
「その代わり」
 暗い暗い、闇の底を映したような目。艶やかな絶望の色の目をして、先生が言った。
「……行く前に、俺を殺してくれ」

 声を上げて泣く間もなく、先生が、終わろうとする。
 合わせられなくて。
 ついて逝けなくて。
 押し寄せる熱に飲み込まれた。


 泣こうが、叫ぼうが、外には聞こえない。
 出会ったことになんの意味があるのか、って……ずっと、考えていたんだ。




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