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「俺、西村が好きなんだよ」
 一瞬頭が真っ白になって、目を見開いた。「好き、って――?」
「まあ、恋人にしたいとか? ヤリたいとか、そっちの意味で」
 躊躇なく兄さんへの想いを言葉にする深森さんに、俺はただ息を呑むことしかできない。
「だから弟くん、君が邪魔」
「……なんで、俺が邪魔なんですか」
「疑問に思うのはそっち? 理解あるんだなーゲイに。まあ俺はバイだけどね」
 一瞬、言葉に詰まった。
「俺なんかより……女の子たちの方がライバルなんじゃないですか。兄さんはすごくモテるし」
 思わず挑むように言った俺に、深森さんが片眉を上げる。
「ないない。西村の頭の中は弟くんでいっぱいだから」
「そんなこと……」
「西村のブラコンは、ちょっと……尋常じゃないなあ、なんてさ? 思うわけよ。普段見てるとね」
 軽口のように言った深森さんの目は、本気だ。「なあ、おまえらデキてたりしないよな」
 絶句してしまった。俺が呆気にとられていたら、深森さんが口端で笑う。
「その様子じゃ、それはなさそうだな」深森さんがははは、と声を上げる。そして、冷たい目で続けた。「……こんなチョロくて弱そうな奴相手だったら、負ける気しねえわ」
 なぜ会って早々に、こんなことを言われなければいけないんだろう。
 深森さんは、もしかしたらずっと弟の俺のことを煙たく思っていたのかもしれない。それくらい、この人が発する空気は攻撃的だ。
「……兄さんにアプローチするのは勝手ですけど、傷つけたりしたら絶対に許さないです」
「ふーん? どう許さないのかなー」
「殺します」
 深森さんが、目を大きくする。
 自分の口から飛び出た言葉に、自分でも驚いた。
「へえ……俺、君に刺されちゃう?」
「わかりません。とにかく兄さんを不幸にしたら、俺は……きっとあなたを殺します」
 メラメラとした何かが湧いてくる。こんな激情が、俺の胸の奥に潜んでいたなんて知らなかった。
「……面白いね。ねえ弟くん、絶対にこの大学に入りなよ」
 挑戦的な言い方に、俺は思わず、む、と眉を寄せた。
「楽しそうだなー。弟くんの目の前で、西村を落とすのが」
 薄ら寒いものが、背筋を襲った。
 俺は、渦を巻くような不安が胸の中で暴れだすのを、止めることができなかった。




 2018/2/28
 つづく




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