俺は易易とその場に倒れ込んでしまって、のし、と体に重みがかかる。
暗がりの中を見上げると、柏木兄さんが俺を閉じ込めるように畳に手をついていた。
「襲われるのは、性分じゃねえんだよ」
いつもの、涼しい顔。
でもその目が、怒りのせいか遠くの灯りのせいか、めらめらと燃えているように見えた。
ぐい、と着物を肩から引き下ろされて、乳首に噛みつかれる。
ぃあっと声を漏らしたら、あっという間に着物をたくし上げられて、乱暴に下着を引き下ろされた。
「……そんなに犯してほしいなら、ここで一物突っ込んでやろうか」
怒気を孕んだ声。
熱い胸でのしかかられて、赤子の手をひねるように体勢を好きにされてしまう。
「っ、ん、ぃ……」
足を抱え上げられて、兄さんの指が乱暴に俺の尻の間を探ってくる。
引きつれるような痛みに、一瞬、恐怖を感じた。
でも、酒の入った体はすっかり弛緩して、兄さんの乱暴な前戯を受け入れてしまう。
……いい。嬉しい。ひどくされたい。
このまま兄さんのを俺の中に突っ込んで、体が壊れてしまうくらいめちゃくちゃにして欲しい――。
そう思ったら、ぐずっと腰がとろけて、甘い息が漏れてしまう。
俺の尻に、固くなりかけたそれを押し付けていた兄さんが、ふいに動きを止めた。
「……乱暴されて悦んでんじゃねえよ……」
兄さんに、抱えられていた足をぶっきらぼうに投げ出されて、小さく呻く。
兄さんは、上がった息をひとつととのえて、俺に乱された着物と帯を直しながら俺を見下ろした。
「夕凪。今、謝れば見逃してやる」
俺は、畳に投げ出された体を起こしながら、頭を振った。
「酔っていたんだろ」
「……違、う」俺は、見下ろしてくる兄さんをぎゅっと見つめて言う。「俺……酔ってなんかいません。兄さんがしてくれないから、いっそ乗っかろうとした……」
自分では、気を強く持っていたつもりだったのに。
口を閉ざした兄さんに目の奥を見つめられたら、畳についた手が震えてきた。
たまらず、じわ、と目の奥が熱くなる。
ーーダメだ。一度泣きだしたら、きっと止まらなくなる。
「……して」
……ああ。
ぽろぽろと、涙が転がり出て行く。止まらない。
「柏木兄さん、俺のこと……抱いて……っ?」
体中から火を吹くほど恥ずかしい。
震える手で居住まいを正して、その場に正座する。
手をついて、深く深く頭を下げたら、はたはたと涙が畳を打った。
「一度だけ……慰みものでいいんです……っ、お願いします――」
頭の芯が、しんと冷たくて熱い。
ひっそりと柏木兄さんに恋い焦がれていただけの、真面目な店の子という俺が、壊れていく。
こんなに情に狂った男腐れになったと、兄さんに見せつけている。
「兄さん……おねがぃ……」
喉が震えて、末期の言葉が震える。
沈黙の空気がたっぷりと俺を泣かせる。
兄さんの、大きな大きなため息が降ってきた。
……怖い。なんて言われるのか。
俺がびくびくしながら見上げて様子を窺うと、兄さんが、その場に片膝立てたあぐらをかいた。胡乱な視線で畳を撫でる。
「……おまえ、次の非番は」
とっさの問いに俺が戸惑っていると、兄さんがじり、と立ち上がる気配を見せたから、慌てて口を開く。
「ふ、二日後! 長月の終わり、です」
柏木兄さんは、物憂げに畳に視線を投げたまま、ぽつりと呟いた。
「その晩、空けておきな」
「……え?」
「月終わりの晩、終の間へおいで」
「つい、のま――?」
聞いたことがない、物騒な響きにゾクッとする。
俺が怖がったのが顔に出ていたのか、小さく鼻を鳴らして兄さんが言う。