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 白い首に、手をかける。
 力を込めたところで目が覚めるんだ。
 もう何度も何度も、この夢を繰り返している。
「ユーリ……っ」
 ああ、君を殺めてでも。
 私のものに。






RE DEATH








 灰色の人々の中で、君だけが仄かに輝く。
 君は、知人らしき男と柔らかい表情で話している。
 ……握りしめすぎたグラスが、爪でガリと音を立てた。
 次々と私の目の前に現れる着飾った人々は、大げさな挨拶をして去っていく。それを心にもない笑顔で見送る、無意味な繰り返し。
 身動きのきかないこの状況に焦れて、再び君に目を向ける。
 君は、また別の男と話している。飲みかけのグラスをテーブルに置き去りにして広間を出て行く。
 残されたグラスの中の、シャンパンが揺れていた。
 ――どこへ消えた?
 さっきの男と一緒なのか。男だったら、誰でもいいのか。
 ……頭が、煮えそうだ。
 失礼、と声を掛け、人の輪の中から滑り出た。
 主賓を失った彼らの空気は、心なしか緩んだように思えた。
 シャンデリアの明かりに照らされた装飾の中を足早に歩く。
 部屋にも廊下にも人が溢れかえっている。
 女の胸に輝く宝石。男の胸に輝く勲章。
 そして私の胸にも、煩わしい輝きが乗っている。
 虚飾だらけの世界に、気が狂いそうだ。

「――シモン卿」
 春風のような声が、背中を撫でる。
 一拍ためらってから振り返ると、輝く黒い瞳と目が合った。
「……ユーリ、子爵」
 君は、ひとりで立っていた。
 ――同じだ。
 初めて会った時と。
 一目で、私はダメになった。その桜色の唇も白い頬も、気が強そうな眼差しも。
 二言三言交わしただけでわかった。
 唯一無二のものを見つけてしまったことを。
 女でないことを悔やんだが、今思えば、そんなことはどうでもよかった。
 男との遊び方は知っていた。悪友からの知識に加え、好き者の相手をしたこともあった。
 やり方は、強引だったと思う。
 それまでの私の生き方がそうだったように、欲しかったから力づくで手に入れた。
 候爵と子爵という身分の差を使い、言うことをきかせた。
 呼びつけ、手練手管を踏むことなく、彼が驚いて開いた唇に強引に舌を滑らせた。
 男を知らない身体を開かせ、馴染ませ、欲しがるようにした。
 時間さえあれば、物陰でも犯した。
 ユーリの身体は、穿てば私を巧みに包み込んで、震え締めつけながら快感を吐き出すようになった。
 初々しさはいつまでも消えず、それが余計に興奮した。
 飽きが来る気配のないまま、毎日でも足りなく思った。
 ……今は、こうして傍に立っているだけで、空気が融けているように感じる。
 なのに、律儀に留められたボタンシャツに、仕立ての良いディナー・ジャケットを羽織っている彼は、何も知らない子どものようにも見えた。
 ……このやりきれない想い。どうすればいい。
 ユーリは、見つめ続ける私を訝しげに見ながら、小さく言った。
「ユーリです、候爵」
 自分の名前を口にする君に、怒りに似た感情がこみ上げる。
 ……覚えていないはずがあるだろうか。
 君の身体の隅々を知っているというのに。
 私が返事をせずに一時目を伏せると、君は少し困ったように眉を寄せた。
 君が、色の薄い唇を開く。
「この度は――」
 ――ああ。その声が、語りかけてくる。
「ご結婚おめでとうございます」
 ……無垢に微笑んで、残酷な言葉を吐く。
 ユーリが、柔らかい黒髪のクセを気にしながら俯いた。
 それは、私の視線に耐え切れない時にユーリがする仕草だった。
 胸に甘い痛みが押し寄せる。
 ――もう、耐えられない。
 足早に歩み寄って、はっとした君の華奢な腕を掴んだ。
「あ……」
「……君に出会ったことを、後悔しているよ。心から……っ」
 吐き出すように囁くと、君は、その瞳に傷ついたような色を浮かべた。
 その目を強く見つめる。
 この場で裸にして、私のものにして。
 私が愛するのはこの男だと……そう大声で叫びたい衝動を込めた。
 君の目の色が、微かに変わる。
 私の心に気がついたのか、じわりと頬を染めて胸を押し返してくる。
「……酔いが回りました、僕はこれで失礼を――」
「なぜここに?」
 苛立ちを抑えて尋く。
「なぜ、って――」
「私は、君に言ったはずだ……っ」




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