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「不安そうな顔ー」
 そう言われて、顎を捕まえられる。
「んっ」
 はじめは、触れる程度に。
 角度を変えて何度も唇をついばまれる。
 緊張でガチガチの体から、力が抜けてくる。
 ふ、と息をしたら、見計らったようにぱくりと唇を食べられた。
「ン〜……っ」
 音がするほど口の中を舌が這い回って頭がぼおっとしてくる。
 逃げていた舌を吸われて、腰が震える。
 とろとろになった頃、やっと唇が離れて行った。
 頭はぼおっとするし、体はひくひくして、止まらない。
「あ……もしかして」
 俺の顔を見て、嶋沢が甘い声で言う。
 そのまま、俺の雨に濡れたパンツのチャックを下げた。
 その動作を俺は抵抗もせずに、ただ、ぼんやり見ている。
「……すご、キスだけでイっちゃったんだ」
 嶋沢が、下着のゴムを引いて、中を覗きこみながら嬉しそうに言う。
「準備、しといた方がいいかもな」
 ぽつり、と呟いた嶋沢の言葉の意味がよくわからない。
「立てる?シャワーまで行ける?」
 言われて、頭を振った。
「む、むり……」
「今言っておくけど、俺、タチなんだよね」
 たち?
 急にわからない言葉が飛び出して、首をひねる。
「だから、望にはネコになってほしいんだけど……まあ、最初は触るだけでもいいと思ってたけどさ」
 ますますよくわからない。
「意味わかんない?まあ、そのうちわかるよ。それでさ。望、朝、してきた?」
 急に訊かれて、なにを?と首を傾げる。
「だから――」
 耳元でこそっと続きを言われて、我に返った。
「なんでそんなこと訊くんだよっ」
「どこ使うか想像つくだろ?」
 言われて、意味がわかった。
「……してるよ、毎日」
「望がお利口な体でよかった」
 言いながら、嶋沢が、俺のパンツと下着に手をかけて、ぐいっと引き下ろす。
「な!?」
 慌てて前を手で隠す。そんなことに気をとられていたら、あっという間にうつ伏せにされて、尻を掴まれた。
「空っぽだと思うけど、ね。一応確認」
「や、や……」
 ぐい、と尻たぶを拡げられて恥ずかしくて暴れた。
 そんな抵抗ものともしないで、嶋沢が呟く。
「きれいな色だね、ぴっちり閉じてる」
 ふ、と息を吹き掛けられる。
「ぃや、やめろよ……っ」
「あ、感じる?ひくひくってしたよ」
 あ、後で絶対殴る!
 そう思っていたら、とろりと生暖かいものが尻に垂らされて驚いた。
「な、なに」
「ただのローション」
 そんなこと言われても、これからどうされるのかわからないのに。
「ここほぐすから。気持ちよくするから力抜いてな」
 そう言って、嶋沢が、指でくるくるとそこを撫でる。
「ほぐすって――」
「指から慣らして……俺が入るくらいほぐれたら、いっぱい突いてイかせてあげる」
 それがどういうことかよくわからなかったけど。甘く甘く囁かれて、胸や背中にも這う愛撫に震えながら、ただ身を任せるしかなかった。




 頭が、ぼおっとしてる。
 いつの間にメガネが外されたんだろうと思って、ぼやけた暗い天井から、目の前の男に目を移した。
「っ、はじめて見かけた時に……ぴんと来てさ――」
 細められた目で、見下ろされてる。
 少し上擦った息が、続けた。
「望は、絶対、俺と体の相性がいいって」
 嶋沢の微かな身じろぎが、体に伝わってくる。
 あの後、たっぷり時間をかけて愛撫されて。
 意識も半分ぐらいになって抵抗できなくなった頃に、ゆっくりゆっくり、繋がれてしまった。
 痛くて入るわけないと思ってたのに、少しでも苦しそうな顔を見せると、嶋沢は、その度に動きを止めて俺をなだめた。
 たぶん、すごく気を遣ってるんだと思う。
 普通は、こんなところに入れられたら痛くて気持ち悪いだろうし。
 なのに、今は抵抗感もなくて、ただ、溶けたように熱い。
 ……やっぱ、嶋沢、慣れてるのかな。
 そう思ったら、また妙に胸が痛んだ。
「息しなよ」
 緊張して、息が止まってたみたいだ。
 甘い顔が近づいてきて、鼻の先で鼻先を押される。
「キスのときは、鼻でするんだよ……わかった?」
 返事をする前に、あっという間に唇を奪われる。柔らかくって熱くって、頭がぼーっとなる。
 嶋沢が、微かに笑って言った。
「……エロくていいね」
 最初は、なんのことを言ってるのかわからなかったけど、それが、俺が必死で息継ぎする時に漏れてる鼻声のことだって、その後のキスでわかった。
 ねっとり味わっていった唇が離れると、甘い目と目が合った。
「んあっ」
 突然、ぐん、と押し動かれて、頭の先に快感が抜ける。
 出てしまった声に驚いて、慌てて口を押さえると、吐息混じりの甘い声が言った。
「……ビンゴ。声、かわいいだろうなーって思ってた」
「おま、え、そんなこと考えて――」
 俺としゃべってたのかよっ。
 睨むと、嶋沢が、にやり、と甘い笑みを浮かべる。
「他にもいろいろ考えてたよ。どの辺が感じるかなー……とか」
「へんっ、たい……!」
「光栄だね」
 腰から脇腹を撫でながら、嶋沢が囁く。
「その内、よかったーって思うんじゃない」
「なにが……だよっ」
「俺が、変態じゃなかったら、こんなに気持ちよくなれなかったかもって」
 きっとそう思うよ、3時間後くらいにね。
 そう言って、嶋沢が、わずかに口端を上げた。
「んあ、あ……っ?」
 小さく腰を揺らされて、繋がった場所も一緒に動く。
 おなかの奥の方で、じわりと波紋が広がるように、言葉では表現できない感覚が広がってく。
「ぁ、ん……」
「ン、よさそう――じゃん」
 なにか確信したように呟いて、嶋沢が、ギシッ、とソファベッドを鳴らした。
 そのまま、ゆっくりと押し上げられて、引きつるような声が出た。
 じれったくなるほどゆっくり抜いたり、また入ってきたり、少しずつ波紋が大きくなっていく。
「ん、ん、なに、これ……」
「そのままそのまま……、入るとき腹に力入れて」
 未知の感覚で、地図がない俺は、嶋沢の慣れた言葉に誘導されるまま言う事を聞くしかない。
「ぃ、あ、っ」
「……くっ、結構締まる……っ」
 少し大きく突き上げられた途端、全身にしびれるような甘い感覚が走り抜ける。
「ぅあ……っ!?」
「あー……キた?ここかあ――」
 嶋沢が、言って、しっとりと汗を掻いた額を拭って髪を後ろへかき上げた。色っぽくて、心臓がどきどきする。
 ぺろり、と唇を舐めると、少しずつ強弱を変えながら、でも、さっき俺が強く反応した場所を狙って突き上げてくる。
「や、やだ、そこ、やめ……っ」
「いい顔してるよ……気持ち、イイんでしょ……?」
 抜かれたり入れられたり、掻き回されたり。
 途中から、もう、よくわからなくなった。
 気持ちがいい。
 それしかわからなくて。
 日に焼けた厚い肩に、必死で縋る。
「っ、中、ビクビクしてるね。イきそう?」
 荒い呼吸の合間に、嬉しそうに言われて、俺は、声にならないまま必死に頷く。
「ン……いいよ、イって。俺もイくから……」
「い、いく、イくぅ……っ」
 あっという間に追い上げられて、遠く遠く、意識を手放してしまった。


***


「嘘つき」
「まあ、否定はしないけど」
 俺の体をタオルで拭ってくれる茶髪を掴んで引っ張る。
「いてて」
「何もしないって言ったくせに!」
「でも、気持ちよさそうだったじゃん」
「それとこれとは、話が違うだろ!」
 俺は、何もかも初体験だったんだ。それをそれを……男と経験してしまうなんて。
 流されたわけじゃない、決して!でも、でも……こいつの甘い目に、動揺したのは認める。
 でも、嶋沢はひどい。きっと、ホストとしての商売道具を動員して、俺をこんな風にしたんだ。ちくしょうっ。
「なあ、望」
 俺は、怒ってるんだ。
 きっとこの後、早くシャワー浴びて帰れよとか言われて追い出されて。
 2日、3日となんの音沙汰もなくなって。
 ……遊ばれたんだって、わかるコースだ。
 かわいそうな女の子と同じコースなんだ、きっと。
「望ー」
 話しかけるなよ、俺は、打ちひしがれてるんだ。
 流されたように関係を持ったことに対してもそうだけど。
 ……きっと、こいつのこと、好きになっちゃってることに対しても。
 絶対絶対、こんなことにならないように、気をつけてたのに!
「なあ、聞いてる?」
「なんだよっ」
「こんなことになってから言うのもなんだけどさ」
 びくっ、と体が揺れる。
 どうしよう。
 覚悟してるにしても、タイミングが早すぎる。
 もう少し気持ちの整理をつけてから、帰れって言ってほしいんだけど。
「俺たちさ、付き合わない?」
 あー!
 やっぱり言われた、付き合わない?だって!
 ……あれ?
「へ?」
「だから。俺の恋人にならない?」
「え、いや、あの……帰れって、言わないの?」
「は?何言ってんだよ。話聞いてた?」
 聞いてたけど、だって、嶋沢が言うわけない。
 遊び人の嶋沢が。
「誰が、遊び人だよ」
「だって、ホストなんだろ?」
「はあ?誰が」
「だって、日焼けしてて、茶髪だし」
「これは、サーフィンで焼けたんだよ。海焼け」
「だって、すっごい高そうな部屋だし!テーブル赤いし!」
「このマンションは、実家の所有。テーブル赤いのは俺の趣味じゃない、兄貴の趣味」
 引っ越しの時に、お兄さんのお古をもらってきたらしい。
「だって……モテそうだし」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
 そういうとこ、好きなんだけど。
 そう言って、軽いキスが降ってくる。
「俺が、望のこと遊んでると思ったわけ?」
 うん。正直に頷く。
「……遊ばれてもいいと思ってくれたわけ?」
 ……そういう風にも思ってたのかもしれない、けど。
「やっぱかわいいね、望は。気持ちいーいえっちで、俺の愛伝わらなかった……?」
 そう言って、焼けた手が、尻を撫でてくる。
 顔、熱い……。
 嶋沢の舐めるような甘い目から必死で逃げる。
 いろいろ、訊きたいことは残ってるし、この手馴れた甘い雰囲気の原因もわかってないけど。
「……泊まってけよ。な?」
 甘い甘い毒のような声で囁かれたら、ただ、頷くしかなかった。



 END

 久賀
 2011/02/12



 あとがき>>
 1500HITキリ番をゲッター、うた様のリクエストで、『年下×年上』でした。実は、年下攻、生まれてはじめて書きまして。うまくできてる自信がありません。『年下が浮気性で年上は本当は自分のことだけを見て欲しいんだけど年上だからなかなか言えず・・・。』というような、素晴らしい設定も頂きまして、それに乗っかって書かせて頂きましたが、全然違う方向へ話がいってしまい、ご希望から大分逸れてしまった……。惨憺たる結果ですがお許しください。リクエストありがとうございました。




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