01

「うーん…フライゴン。もっと早く行けないかなぁ。ちょっとヤバいかもしれない」
どこかのんびりとした口調で自分を乗せて飛ぶ存在に目配せをする青年。
そんな彼を乗せて飛ぶ生き物は、首だけを回らせて青年を見た。
『これ以上は流石にスピードが出ないよ?やれるはやれるけど…絶対玄姫が下に落ちるし』
自分の背に乗る人物を案じて澱みなく人語を話すそれは、明らかに人間ではなかった。
胴の長い体は緑色の表皮に覆われ、目元は赤い殻で防護されている。
セピア色の髪を持つ青年を乗せた存在はフライゴンと呼ばれる種族だ。
緑溢れる森林を見る。だが柔らかな緑が広がる地上は遥か下。一歩間違えたならあの世へ真っ逆さまな距離だ。
互いにのんびりとした口調で話しているが、実際は力を緩めれば一瞬で吹き飛ばされそうな速度で飛んでいる。
フライゴンに跨がり柔らかな笑みを浮かべる彼は、風圧で白いジャケットを翻し、両手はしっかりとフライゴンにしがみついている。
「そっかぁ…」
のんびりとした口調の中に焦りを滲ませ、参ったと言わんばかりに困り顔をした。背後を見やると三十はいるだろうゴルバットが殺気立ちながら物凄い勢いで追いかけてきている。
普通この状況ならばもっと騒ぎ立てても可笑しくないのだが、空中逃走劇を繰り広げている彼らのゆったりとした口調は大して焦りを感じさせない。だがその実、彼らは迫りくるゴルバットの群に危機感を感じていた。
「うーん。フライゴン、フラッシュ使えない?このままだとオレたちアイツの餌食になって木乃伊になっちゃうかも」
『無理言うな!フライゴンには出来ないことの方が多いの!あと木乃伊とか洒落にならないこと言うなよっ!』
「えー。じゃあ頑張ってよ」
『薄情者!もう少し僕の為に考えてくれてもよくないっ?』
「はははー…。今持てるオレの心の全てを持って信じてるよー」
面倒事を丸投げした青年にフライゴンは悲痛な叫びを上げたが、それは青年の朗らかな笑い声で揉み消されたのだった。


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