02




柔らかい色合いの白壁に藍色の屋根の家。
窓枠は木で出来ていてレトロな雰囲気を感じさせ何処か温かみを感じさせる。
玄関には色とりどりの花が咲き、隣接している庭には小さな菜園があるのか少々雰囲気が変わっていて見たこともない果実や花が咲いていた。

珍しい植物に視線を取られていると隣に誰かが近づいてくる気配が感じられ視線をやる。
そこには若葉色の髪をした赤い目の青年がいた。先程の黄緑色の生き物が人の姿を象った姿らしい。整った顔立ちをしており青年だけれど少々残るあどけなさが記憶に印象的だ。

ポケモンが人型を取るなど有り得ないと思っていたが、それもそうだと黄緑色の彼は実際目の前で人型になって証明してくれた。それを見せられてしまえば信じない訳にもいかない。色々と思うことはあったがそれを押し止めてポケモンが人化することを認めたのだ。

「ごめん。ちょっと手間取っちゃって。案内するから着いてきてくれる?」
「…お邪魔します。」

招かれるまま彼の後に続く。先頭を歩いていた玄関に続く木製の扉を開くとチリン、と涼やかな音が響いた。視線を上に動かすと扉の上付近に洒落た形のベルが備え付けられている。形状からしてアンティーク物なのだろう、と予想はついた。

「そのベルが珍しいの?」
「あ。いえ、ただ見たことも無かったから」

笑顔を浮かべてベルを指差して尋ねてくる彼に笑顔を乗せて返すと「そっか」とだけ言った彼は案内を進める為に再び足を動かす。
彼の前に広がったのは玄関らしくない玄関だった。間取りを取っていいてこれではまるで廊下でも玄関でもなく室内のようだ。そこ彼処に座り心地の良さそうなソファや椅子が幾つもありテーブルも幾つか置いてある。よく掃除された部屋だ。だが個人が持つには少々多すぎるテーブルや椅子の数に少しだけ違和感を感じる。ほんの少し人が住む家じゃない余所余所しさがあるのだ。
視線をあちらこちらにやりながら彼に続くように足を敷居を跨ぐと木製の床を靴で踏み締めた。
この家は洋式なのだろうか、それともこの世界が洋式の形をとっているのだろうかと取り留めのない考えが浮かんだ。

「ここって元々客間っていうか店をやってた時の名残りだから土足でもいいんだ。君と話す場所はここじゃなくてもうちょっと奥に入った場所だよ。靴を脱ぐ場所だから気をつけてね」
まるでこちらの考えを読んだかのように話す彼に内心驚きながらも表面には出さずに一つ頷くだけに留める。
キッチンのような場所を抜け更にその奥の間も通り過ぎた。案外この家は広いのかと感心しつつも黙って着いていくと、再び玄関のものとよく似た扉が現れる。
躊躇いも無く取っ手に手を掛けた彼が扉を開くと、そこには一番最初に見た客間とは違い人が住んでいるような部屋が広がっていた。
部屋には二人の人間が向かい合わせのソファにそれぞれ座っている。
一人は赤眼と黒髪に前髪だけを金髪に染めた目つきの鋭い青年。黒いジャケットに赤いワイシャツを着ている。
もう一人は赤眼に長い白髪を肩の辺りで結んだ涼やかな雰囲気の青年だ。こちらは深緑の着物に白い羽織を被り赤と青の扇子を腰帯びに差している。
黒髪の青年は恐らくあの時の黒いドラゴンだろうがもう一人の青年については知らない。
一体誰だと首を傾げていると黄緑色の髪の彼が白髪の青年に近づく。

「連れてきたよ。黒金と、偲は初めてだよね。この子が例の子。波奈って言うんだってさ」
「そうか。ソイツが…」

話しかけられた青年…偲はちらりと視線を向けてきた。何かを探るような視線に居心地が悪くなると黒髪の青年に話しかけられる。

「ンなとこ突っ立ってないでこっち来て好きに座れ。話すもんも話しにくいだろうが」
「あ。気が利かなくてごめん。黒金の言う通り好きなとこ座っちゃっていいから」
「…というより、俺が不躾に視線を送った所為で気遅れしたんだろう。悪かった」
「い、いえ…私の方こそ気を使わせてしまってすみません」

三者三様の言葉に苦笑しながらもソファに近づき座った。誰からも遠く近い適度な場所に腰を落ち着けると、それに合わせたかのように黄緑色の髪の青年も腰を下ろした。

「さてと。まずは自己紹介からだよね。俺は颯。君の目の前に下りてきたフライゴンだよ」

明るい笑みを浮かべて話す出す青年は颯。元はフライゴンというポケモンらしい。記憶の隅にそのことを書き留めておくと次に口を開いたのは黒髪の青年だった。

「オレは黒金。ルリアゲハ…あーじゃなくて。金髪の女を乗せてたガブリアスだ。ついでに言うとあの時の女はルリ=アゲハって言って人間な」

緑茶を口に含みながら話す彼は次いでとばかりにあの時一緒にいた人間の女性の名前を口にする。成る程。彼女はポケモンではなく人間だったのか。
美しい容姿をしているからもしかしたら人間ではなく目の前にいる彼らのように擬人化した人間なのかもしれないと思っていたが違ったらしい。

「最後は俺だな。初めまして波奈。俺は偲と言う。俺も人間ではなくロズレイドというポケモンだ」
「初めまして。ご存知かと思いますが波奈と言います」

偲という青年の紹介が終わると今度はこちらが挨拶した。序に一度頭を下げる。

「それで早速とは何ですが話と言うのはなんでしょうか?」
「あぁ。突飛な話しなんだけどさ…もし君が信じられないなら笑い飛ばしてくれてもいいんだ。ねぇ波奈…」

そう言って一拍置いた颯は微笑みながらそっと信じられないことを口にした。

「君は異世界で生きていたことはあるかい?」
「…は、え、…な…」

いきなり何故、どうしてそんなことを言うのか。あまりに突拍子もなく核心をついた問いかけに咄嗟に否定する言葉を失う。
驚愕のあまり目を見開くとその表情を見ていた颯は何処か悲しそうに「やっぱり」と呟いた。
やっぱりとはなんだ。彼の言っていることがわからない。異世界とは突飛な話だ。普通ならこの世界の普通のヒトならばまず思い浮かばない話しだろう。
何故彼はあの時あの場所に来た。エムリットが消えた直後に。
彼の質問はまるで今の自分の状況を見透かしたような内容ではないか。もしかしたら彼はあのエムリットとかいう生き物の仲間なのかもしれない。
彼らは何を知っているのか。それともエムリット以外に自分を殺しにきた使者なのか。
一気に頭の中を駆け巡る幾つもの疑問と疑惑にどうしたらいいかわからず体が固まった。
するとそんな空気を割るように深い溜息を吐き出す音がする。視線を向ければ短い髪を掻き乱す黒金がいた。

「異世界っつー単語に反応した…しかもアイツと似た匂いを放ってやがる。ってことはやっぱコイツもどっかから来た人間ってことか。なぁアンタ」
「は、い…」
「『サナ』って名前に心当たりはないか?」
「黒金…あのね。物事には準備が必要なんだよ?」
「お前はいつも順序を飛ばし過ぎるぞ」
「あー…オレはまどろっこしいのがキライなんだよ。はっきり聞いちまえばいいじゃねえか」

咎めるような声で声を上げたのは颯と偲の二人だ。それに対して不満そうな顔をする黒金に偲は軽く息を吐くと呆れた視線を向ける。

「それにしても唐突すぎる。順序を追って説明しよう。彼女も随分と混乱しているようだ。一度時間をとった方がいいかもな。黒金も頭を冷やす時間が必要かもしれないしな」
「うぐ…っ」
「ホント色々突然でごめんね」

気遣わしげに視線を向けてくる颯にぎこちなく微笑むと、時間を置く必要ないと横に首を振った。

「大丈夫です。どうぞ話しを続けて下さい。私自身にも深く関わる話しのようですから是非ともお聞きしたいです」

真摯な瞳を向けるとその場にいた三人は一瞬驚いたような表情をするが次の瞬間ほんの少しだけ微笑んだ。

「それじゃあ話を続けようか。もし無理そうならばいつだって言ってくれていい」

穏やかに告げる偲に了承の意として一つ頷いて見せた。
知らぬ内に汗ばむ掌を誤魔化すように拳の形にすると、何も言わずに視線を向けてくる三人の男性へと視線を合わせる。

「…お願いします。話して下さい」

どうかその話しが、自分にとって有益な情報であることを、胸の内でそっと願って。

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