梦弐




少年は笑っていた。本当に幸せそうな笑顔で。その腕には柔らかい何かが抱き締められている。その隣には少女が座っていた。彼女の腕にも少女の上半身ほどの大きさの生物が居た。優しげに笑う彼女は少年に何かを言って頬を膨らませると自分の隣に居た誰かに話しかける。
話しかけられた誰かは顔がよく見えなかった。けれど口元は穏やかな笑みを浮かべていて、彼らと仲の良い人物なのであろうことは分かる。少女の長い髪が絡まった場所を解きながら小さく笑うと、少女の頭を一つ撫でた。
次いで少年に何事かを言うと少年は苦笑して少女に向き直る。次いで頬を膨らませたままの少女に向き直ると両手を合わせて軽く頭を下げた。
少女は暫く頬を膨らませていたが少年が同じことを二、三回すると満面の笑みを浮かべて少年の頭を撫でる。照れ臭そうな笑みを浮かべた少年だが、それを振り払うことはせずにされるがままにさせていた。

そんな少年と少女の様子を見ている誰かは穏やかな笑みを浮かべて見守っている。
微笑ましさを感じさせる柔らかい光景だった。


◆◆◆


逃げろと言ったのは少年だった。先程よりも成長したのか体が少し大きくなっている。その隣には少女も居て彼女も少年と同じように成長していた。二人の表情は緊迫していて物陰に隠れながら何かを窺っている。彼らの後ろには誰かもいて二人と同じように表情を強張らせていた。

必死に気配を殺している三人。だが突然何者かが現れ誰かの背中を切り裂いた。壁や床には勢いよく赤い飛沫を撒き散らしながら、悲鳴もなく倒れる誰か。その光景を見て悲鳴を上げる少女。愕然とした表情を浮かべる少年はそれでも少女を守ろうと悲鳴を上げ続ける彼女の腕を掴んで引き摺るように駆け出す。
少女はそれに抵抗するように腕を振るが少年は顧みることをしない。少女は後ろを振り向き倒れたままの誰かを求めるように手を伸ばした。泣き叫びながら同じ言葉を繰り返す少女。

けれど切り裂かれた誰かは再び起き上がることは無く、誰かを切り裂いた存在が背後の影から出てきた。後に残るのは少女の叫び声と赤く染まった空間だけ。


◆◆◆


ゴボリッと鈍い音が耳元で響いた。重い瞼を押し上げれば視界に入るのは黒に近い深い藍の色。水だった。
肌を裂くような冷たい水が自分を取り巻いている。波が押し寄せる度に体は下へ下へと落ちていくのに何故か足掻こうという気持ちは沸かなかった。寧ろ心地よい揺れに再び瞼を落としそうになる。
視界には色取り取りの珊瑚と魚の色が映り、唐突に此処が海であることを知った。

ふと上を見上げればきらきらと輝く光が見える。日の光か月の光か、それは分からないが自分の体が落ちれば落ちるほどその光はとても美しいものに見えた。

同時に…泣きたくなるほどとても愛おしいものに思えた。

何故かはわからない。普通に考えれば可笑しいことだ。今まで海の中から光を見ただけでこんな思いは抱いたことはない。

けれどあの光を見るだけでまるで大切にしていたモノに数年越しで再び巡り会えたような、そんな愛おしさが体中を駆け巡ったのだ。

ごぼっと口の中から沢山の空気が出ていく。けれど不思議と苦しくは無かった。

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