そして呪うように




願っていることがある。叶えたいことがある。この身が無くなってしまっても。想いを紡ぐことが出来なくなってしまっても。願うことがある。
けれど願いは叶わない。望むことは赦されない。想うことも、もう赦されない。
これが罰だというのなら、神はなんて残酷なのだろう。けれどなんて正しい判断なのだろうとも思えた。
この身に免罪符なんて存在しない。この心は罰を受け続ける。
苦痛しかない時の中自分を罰することだけが唯一の逃げ道だったのかもしれない。
そんな自分が浅ましかった。

◆◆◆

「愛してた」なんてそんな言葉は言い訳にもならない。
「幸せになって欲しかった」なんてこんな状況じゃ嘘にしかならない。
でももう何を言い繕っても吐く言葉は嘘でしかなく、言った事実は全て偽りとしか映らないだろう。
本当はこんな結果になるなんて思わなかった。こんな結末なんて望んでもいなかったのに答えは勝手に転がって転がって、ついに奈落の底にまで落ちてしまったのだ。

もう、何もかもが遅い。気付いた時にはエンドロールは目の前に一つだけ。

ぽたぽたと流れ出る涙で視界が滲む。目の前にあるのは欲しくもなかったモノ。
緊張からか恐怖からか、情けなくも全身は小刻みに震え、刻む鼓動が速さを増し、頭の中をドクドクと音が鳴っていた。
体は末端から冷え、視界だけが赤く染まっていく。まるで全身の血が眼球に集まってしまったかのような感覚だ。
恐ろしさを感じる余り呼吸は浅くなり段々と上手く息が吸えなくなる。
「ぁ…、あぁ……」
自分のしてしまった愚かしい罪。消えない罪過。それは巡り巡って彼の人たちを苦しめてしまった。
自分の願いとは懸け離れた現実は、逃げ場を無くした自分に答えを突き付けてくる。
過去の自分が逃げて逃げて避けてきた答えはあまりにも、残酷だった。
「ぁ、ああ、…っぁあああああぁぁあああああぁぁああっ!!」
狂えるほどに望んだモノ。渇望した果てに掴み取ったものは幸福な結末ではなく、ただの愚者が抱いた夢の残骸。
「ちが、う違う…違う違うッ!私はっ!わたしが望んだのはっ…!」
こんな筈ではなかった。こんな苦痛に満ちたものは望んではいなかったのに、どうしてと血を吐くような声音で叫ぶ。けれどそれは何処にも届かずに暗い暗い空間のみに反響するだけ。

声は何処にも届かない。願いは誰にも聞き入れてはもらえない。
変えるだけの代償は支払った。けれどそれは望む現実を得るための代償ではなく、変化を与えるだけの代償でしかなかったのだ。

だが幾ら否定しようともどのような変化でも変化は変化。支払われた代償はもう二度と戻ってはこない。変化した内容は変えることは不可能だ。

知らなかったでは済まされない。己はそれほどのことをしてしまった。万の謝罪を言っても赦されることはないだろう。

支払いできないほどの罪過を、咎を、枷を、自分が何よりも大切な存在に与えてしまった。

「ごめ、んなさ…い、ご…めん…なさい…」

重すぎる自責に耐えかねて意味も無く泣き噎ぶ。もう取り返しなどつかないのに、口に出来るのは謝罪と後悔の言葉だけ。

なんて無力なのだろう。なんて情けないことだろう。
自分は大抵のことは出来るのだと思っていた。けれど事実は違う。自分はただ驕り高ぶり、優越感に浸っていただけで、、本当は何も出来ない矮小な存在でしかなかったのだ。

事実を知らぬことの何と滑稽なことか。後先も考えずに目先のことばかり囚われて、気付かぬうちに大事なモノは全て掌から滑り落ちてしまっていた。
大切だったというのに、その守り方も知らずに全てを奈落に突き落とすような残酷な仕打ち。それは「彼ら」に対する明確な裏切りだった。

嗚呼きっと自分は未来永劫赦されることはないだろう。喉が裂けるほど泣き噎ぶ中そう思い、いや違うなど否定した。自分が、自分を赦すことができないのだ。

それこそ未来永劫。世界が変わり、文明が絶え、星が枯れようとも。

「う、ぁ…ぁあ…ぁああぁ…っ」

別の存在になろうとも、己を疎み、蔑み、怨嗟の言葉だけを吐き続ける。
その身に苦痛を。その魂に永劫の傷を。その身に幸福など赦されないことを望もう。
苦痛と悔恨を胸に抱き、幾十、幾百の涙を流しながら望んだ。己の対する絶対の絶望と奈落を。

口端から零れ出る血など知らないかのように虚空を睨みつけてソレは叫ぶ。

「例え万の時が廻ろうとも、絶対に忘れない…ッ!!」

それは呪詛にも似た宣誓だった。それは罰を望む声音だった。
…――……そして何よりも赦しを乞う声にも聞こえた。

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