bad end memory




あの頃僕には君が一番だった。誰よりも誰よりも本当に大切で…身に余る幸福とはこのことかと実感した程、優しい時間だった。
だけど。それはすぐに幻想へと書き換えられる。
君は消えてしまった。
いや奪われてしまったんだ。君はとても綺麗で優しくて、そして強かったから。
だから見初められてしまった。
君に惹かれてきた彼らに。
鳴いていた君。
泣いていた君。
笑っていた彼らは本当に満足そうで。

痛みで痙攣する四肢を見て思い知らされた。
自分は無力だと。
抵抗らしい抵抗でさえ、彼らにとっては赤子の手を捻るより簡単なことだった。
自分の意思で動かぬ四肢をこれほど恨んだことはない。
知略を巡らすほど知恵のない自分には、喉が裂けるほど呻き、叫ぶことしか出来なくて。
赤い裂傷さえ気にせず、僕を案じて抵抗している君を見ることしか出来なくて。
情けなさから込み上げた嗚咽を歯で食い縛った。
掠れた声では、君の名前すら呼べない。
そうして、君は消えた。
幾つもの叫び声を残して。

腹部から夥しい血が流れていた。抑えた手も、元の色すら分からないほど濡れてしまう。
真っ赤なそれを見ている内に不意に笑いが込み上げてきた。可笑しかったわけではない。狂ったわけでもない。ただ本当に、笑いが込み上げてきただけだ。
ぶつりブツリと時折暗くなる視界にそろそろ尽きるなと確信した。

願わくはこの世界の神様に、あの子が僕のことで苦しむことがないようにして欲しい。

だけどそれは無理な話。
嫌悪の権化である者の願いなど、神は叶えはしないから。
ブツリ、と今度こそ音を立てて黒で塗り潰される意識。
力の抜けた転がる躯は、鼓動を止めた。

(本当の最期に聞こえたのは君の…、)








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