身も蓋も。




この世には不幸なんてない。逆に幸福もありはしない。
あるのは目の前の事実と事象だけ。現実には希望も絶望もなく捻曲げて出した答えが不幸と幸福であり希望と絶望なのだ。

昔まだ幼い頃に玄姫に言われた言葉は未だに記憶に残っている。
涙の止まらぬ自分に泣き止ませようと言った言葉だったらしいが、まだまだ頑是ない子供に対して難しかった。その上、夢も希望も感じさせない言い方は柔らかい子供の心には余りにも酷だと思う。正に身も蓋もない言い方であった。
成長した今だからこそ受け止められるようになったが、思春期の時代に思い出した時には荒れに荒れたものだ。
仲間にも玄姫にも何度か暴力を奮ったことがある。掴み合いの喧嘩に発展したこともあった。
その度に仲裁をしていたのも玄姫である。
何故か喧嘩している者よりぼろぼろになっていたのだが、いつも浮かべている笑みは変わらなかった。
それにまた苛立ちが増し、頭に血が上ったまま思うがままに吐き出した。
それを言い終えたあと痛々しい生傷を擦りながら彼は笑い、口を開く。
「今君の目には疎ましくて口煩い奴らにしか目に見えないだろう?だけど実は皆、君の痛々しい傷が毎日増えていくのが嫌だから『夜遊びは程々にして』って言ってたんだよ」
失うのは誰でも怖い。空虚は埋められるけれど、一度空いた穴にぴったり見合うモノなど存在しない。
「だからそれを作らないようにって思って言ったのだけど、逆に悪影響になっちゃったね」
苦笑しながら謝罪の言葉を口にする玄姫に怒りは助長したが、何故かそれまであった苛立ちは消えていた。

(言いたかったのは、何事も受け止め方次第で見え方は変わるということ)

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