埋葬花




「…何やってんの?」
地面に座り込みもくもくと懸命に穴を掘る青年に思わず問いかける。
「穴掘ってるんだよ」
そう答えた青年に男は一つ目を瞬かせた。
青年がやることは大抵は理解出来るが、時々こうして突拍子もないことをやってのけるのだ。
その度に奇怪な行動をとる青年に目撃した者が話し掛ける。
だが青年、玄姫はその行為に理解を求めていないらしく、度々こちらが聞いても笑うだけで答えようとはしない。
だから今回も答えは期待しないで話し掛けたのだが、予想に反して玄姫は答えを返してきた。
そのことに少々の驚きと奇妙さを感じながら更に言葉を重ねる。
「穴掘ってるのは見りゃわかる。そうじゃなくて、なんであちこち地面を穴ぼこだらけにしてるのかって聞いてるんだよ」
硝子戸に寄りかかりながら頭を掻くと、玄姫は立ち上がって一端庭の奥に消える。
そして一分も経たぬ内に姿を見せたと思うと、その手に何かを乗せて帰ってきた。
「…何だそれ」
それは根のついた小さな花だった。ミリ単位の濃い紫色の花が房となって木の形に見える。
あまり見掛けない花の形に首を傾げると玄姫は朗らかに笑った。
「んー…知らない?ムスカリっていう花だよ」
「知らん」
「まぁ。ある程度花に興味持ってないと知らないかもねぇ」
そう言って肩を竦めるとその花を傍に置き、再び土を掘り返す作業に戻った。
ざくりざくりと短いスコップで掘り返す単純な作業は男の目には詰まらないものに見える。
漸く納得のいくほど掘れたのか玄姫はムスカリの花を出来た穴に埋めるように植えた。
「あと九十九個かー」
口に出された数に思わず目を見開いた。
「なんでそんなに植える必要があるんだ?」
普通一つの種類はそんなにいらないだろう。そんな意味を込めて言えば、わかってないなーと緩く返された。
「好きな花だから沢山植えるんだよ」
好きなものには囲まれたいからね、とただ形だけ笑っていた。

(自分の為に埋める花が欲しいのさ)






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