絶望よりも尚深く




『-不幸ばかりしか思い浮かべない私は罪の子です-』


自我が壊れる直前まで口にしていた彼女の言葉は死を渇望するモノだった。
自我が壊れた後は故障したテープが繰り返すように謝罪の言葉を誰にでもなく繰り返し、途切れぬ涙が頬を伝わってた。
『お願いです。死なせて下さいお願いしますお願いお願い、死なせて…下さい』
彼女の前にいたその存在に乞うのは自らの死。幾度も絶望を見た彼女にとって見知らぬ彼という存在は、一筋の光明だった。
藁にも縋るように小刻みに震えていた手は拒まれることを恐れていて、それが哀れみを感じさせた。
哀れみは感じるけれど、その手を取ることは出来ない。
手を取ることも逃がすことも彼には赤子の手を捻るように簡単なことだが、彼女が望むモノは余りにも暗すぎる。
死を望むには彼女は年も若く、早すぎると思えた。
自分が今ここで救いだして彼女が救われるのか。そう自問した時に答えは出てこなかった。
それは自分が救いになれるとは思わなかったからだ。
逆に自分が手を貸したことで更に悪化したら、と最悪の想定をした時、上がりかけていた手は静かに自分の横に戻っていた。
最低にも、自分に責任が掛かることを恐れて、壊れかけていた彼女を見ながらも、見捨てるように背を向けることしか出来なかった。

そのあとに咲いた赤黒い色は、まるで見捨てた罪を問うように脳裏に染み付いて離れなくて。

死にたかった。どうしようもなく、楽になってしまいたかった。
自分が仕出かしたことで失ってしまった彼女を思えばこそ、罪の意識が一層重苦しくなる。
けれど、死ぬことは赦されなかった。死ぬという選択肢は用意されていなかった。

絶望よりも暗すぎたそれは、絶対の原罪、だった。


(誰か、この罪深い咎人を殺して下さい)
(誰か、この醜悪な罪人に罰を与えて下さい)
(誰か、…赦して下さい)

(もう誰も…この罪深いオレを、赦さないで下さい)






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