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そらまめ様より

静かな夜だ、霧みたいな雨が降っていて音は聞こえないが気配は満ちている。雨の日特有の気だるさと妙にすっきりとした澄んだ空気。ラネシュは雨が嫌いじゃない(でも、空が暗くなってしまうことは好きじゃない)。
「包帯、替えるよ」
椅子に腰掛ける彼女の目を覆う包帯を解きながらラネシュは思う、この人は自分の顔を覚えているのだろうかと。記憶力とかそういうことではなく、自分を含めた全てのものを、いつか彼女は忘れてしまうのではないのだろうかと。それは確かな不安で彼の胸を時折ひどく締め付けるのだ。彼女はありがとうと柔らかな声音で答える。リラックスしているらしい、落ち着いた声。
彼女の目にはもう視力はない。だから包帯があろうとなかろうと彼女の視界に変化があるわけではないのだがそれでもラネシュはどうしてか白く薄いその布を見ていると何か理由を付けて取ってしまいたくなる。彼女の世界を奪っているように感じるのかもしれない―まだ彼女の目が見えていたころ、よく後ろから手で目を隠してくすくす笑ったものだった。それを思い出すせいだろうか。
「ラネシュくん」
何考えてるの?無邪気といっていいくらい穏やかに彼女は問う。部屋のストーブがぶうんと音を立てながら暖かい空気を吐いていて、それ以外の音は何もしない。包帯は解き終わったのに額に添えた手を動かさないことに疑問を持ったのかもしれない。
「沙那さんのこと、かな」
「えー、なあに、どういうこと?」
「ずっと一緒にいられたらいいのになって」
言葉にしながらその残酷さに言ったそばから後悔した。後悔しながら強く強く思った、本当にそうなったならこの上なく幸せなのにと、どうして世界はこんなことすら叶えてくれないのだと。好きな人たちと共に過ごすことの何がいけないと言うのだろう。
神様は意地悪だ。包帯をぎゅっと握り締めると沙那は笑う。ラネシュくん、ねえ、ラネシュくん。
「今私はここにいるよ」
そうでしょう?絵本を読む母親のように言いながら彼女は少年を抱きしめてやる。彼が見えていたころとなんら変わりなく。ラネシュは自分を包み込むその腕の細さとしなやかさに驚いてぽかんとしながらおずおずと抱きしめ返す。遠慮しながら、でもしっかりと背中に回した自分の手の先同士がぶつかるように。そうだねと言わなくても伝わるように。



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そらまめ様より頂いてしまいました!
嬉し恥ずかし!しかしやはり嬉しい!と歓喜に沸いております。
ありがとうございます。ラネシュ君は本当にいい子で嬉しいです。沙那は幸せものです。
でも本当に…夜道でラネシュ君に出くわしたら私、おそry…何でもございません。
大丈夫ですよラネシュ君。もし沙那が忘れても著作者権限で無理矢理記憶を掘り起こして思い出させますので(笑)
ではでは、本当にありがとうございました!

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