好きの間違えた伝え方


私が好きなものはこの世でただ一つ。それ以上はいらないしそれ以外は必要ない。
恋は盲目だ不治の病だというけれどきっと私もその病の一つに罹ってしまっている。
愛して愛してやまないそれが傷つけられでもしたら私はきっと発狂してしまう。そして彼らを傷つけた相手を決して許しはしない。
だけど私は彼らが傷つかなければ他などどうでも良かった。
例え彼ら以外が傷つけられても気にしないし、彼らを守るために私が傷つけられてもいいし、私が彼らに傷つけられてもどうでもいいの。
本当に彼ら以外はどうでも良かった。私の前から彼らが消えないでいてくれれば私は私でいられる。
だから彼らが苛立ちから攻撃してきても甘んじて受けた。存在が気持ち悪いと、側に寄るなと言われても笑っていられた。
私の存在が彼らを不快にさせているのは申し訳なかったけれど、また彼らを不幸せにはさせたくなかったから我慢して貰いたかった。
もう彼らを研究所なんかに渡したくないから。実験台にはさせたくなかったから。
だから沢山我慢した。彼らに傷つけられても彼らが受けた痛みに比べればこんなものどうってことないと。
愛してやまない彼らに傷つけられて苦しくて悲しくて泣きたかったけど泣かないようにした。
大丈夫。だって愛してやまない彼らがいるだけでこんなに幸福なことはないから。言い聞かせた言葉は少なからず私を癒した。
(嗚呼だけど…)
「っもう…うんざりなんだっ…お前が傍にいるだけで…苦しくて苦しくて悲しくて…辛いんだよ…あの頃よりもずっと苦しいんだ!」
あの頃よりも苦しい。
そう言ったのは愛してやまない彼らの一人。彼は辛そうに瞼を伏せ何も見ないように下を俯いていた。
いやよく見れば、彼の周りにいる彼らも一様に同じ表情を浮かべている。
嗚呼。私は間違っていたのか。
私は彼らが幸せであって欲しかっただけなのに私は彼らの望まぬ逆のことを今までしてきたのだ。
だとしたら私の存在意義とはなんだ。生きている意味とはなんだ。彼らを幸せに出来ない処か不幸せにしてきたなんて。
知らされた事実に心が凍りついてく。過去に見た彼らの笑顔が声が浮かんでは沈んだ。
「…もう、止めよう……頼むから」
ビキリと何かがひび割れた音がした。
嗚呼私は間違っていたと理解してしまう。
彼らの誰かが発したその声があまりに悲痛に帯びていて、その声音が伝える感情が何よりの証拠だったから。
ぽたりぽたり、と落ちた涙は後から後か出てきては地面に吸い込まれていく。俯いた所為で頬を伝うことすらせずに落ちたそれは彼らを不幸せにし続けていた自分に対する嫌悪から出たもの。
嗚呼、私ただ。彼らに幸せを知って欲しかっただけなのに。
それなのに私はずっと、彼らに不幸せを振り撒いていた。
なんて酷く滑稽で愚かしいのだろう。
こんな自分など、彼らの傍に居てはならない。
きっと最初から烏滸がましい願いだった。
いや、烏滸がましい願いだと知っていたのに気付かない振りをしていたのは紛れもない、私自身だ。彼らを不幸せにしたのは私という存在だ。
(なら原因は、絶たなきゃ…)
纏まらない考えの中で唯一考えられたのは、原因を無くさなければいけないということだけでそれ以外は考えられなかった。誰が間違っていたのかと問われれば、誰も間違っていなかったというしかない。
強いて言うなれば誰もが正しくもなかったが一番答えに近い。
だから近くにあった果物ナイフを握りしめて、何の躊躇いもなく自分の頸動脈に振り下ろす。突き刺さった刃を横に引いて抜き出した。からりと落ちた白刃が私の流した血で真っ赤に染まって、転がっていく。
目を見開いて呆然とした様子の彼らが視界を埋めるほど噴き出した赤色に生えてとても綺麗に見えた。
ねぇ。最期の最後に私はあなた達を幸せに出来ただろうか。
幸せなんて有り得ない。食い違いが起こしたバッドエンド。
彼らの幸せを願うばかりで自分の幸せを願わなかった彼女。
彼女が幸せになって欲しいからと彼女を追い詰めてしまった彼ら。
食い違い、というより自己解釈の押し付けあいで最低な結果をもたらしてしまっただけの話。
誰が悪いのかと問われれば、誰も悪かったというしかない。
誰が間違っていたのかと問われれば、誰も間違っていなかったというしかない。
強いて言うなれば誰もが言うなれば誰もが正しくもなかったが一番答えに近い。
逆を言えば誰も彼もが選んだものが間違えていて、そして正しかった。

ただ悲しむとすれば彼女と彼らの心が通わなかったことだけが悔やまれてならない。
ただ、それだけだ。





prev | next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -