04


寝ているケーシィをピジョットの横に寝かせてくれたヒサコさんにお礼を言って席に座る。

「それで、働きたいというのはどういう理由で?」

お茶を出しながら尋ねる老齢の女性、ヒサコさん。隣には椅子に腰かけている老齢の男性、フジキさんが難しい顔で腕を組んでいた。

「正直言って育て屋の仕事というのは大変なものだ。早朝から夜遅くまで働き、休日などないに等しい。加えてポケモンに何かあればすぐに対応出来るようにしなければならない。」

要するに重度の肉体労働だということらしい。自分の世界でいう酪農家の人達と同じような仕事環境だ。

「それでも…私は働きたいんです。」
「これはポケモンが本当に好きではないと働くことが大変な仕事なんですよ?事実、何人も止めていった人はいますし」

やんわりとしかし現実を突き付けてくるヒサコさんに固く拳を握り締める。
ポケモンは好きかと言われれば確かに好きだが恐いと答えるしかない。今まで本物に会ったのはエイパムやケーシィばかりだ。炎が噴き出す生き物や雷を発生させる生き物など今まで会ったことはない。
もしかしたら恐怖心が芽生えてしまうかもしれない。自分は弱い。肉体的にも精神的にも打たれ強い性格とは言えない。

けれど本当に切羽詰まっている現状ではどうにも何でもこなす必要があるのだ。

「…正直私は今までポケモンに触れ合ったことはこのケーシィ以外にありません。ポケモンに関する知識も全くと言っていいほど持っていません」
「だとしたら余計にこの仕事は君には向かない。止めておきなさい」

渋い顔をして言うフジキさん。その表情を見てぐらつきそうになる意志を何とか奮い立たせる。

「お願いします。働かせて下さい。やるからには精一杯仕事をします。ですから…」
「君は何故そこまで働きたいんだね?」
「貴方みたいな若い子は育て屋なんてものよりもいい職業がありますよ」

困った表情でそう問うてくる二人に不安が込み上げてくる。このまま自分のことを言わずに働かせて貰おうとしても無駄だろう。
だが本当のことを言えばこの二人には衣食住が目当てで来たのだと思われる。
しかしどうしようもない今、それを言うしか自分には術が無かった。

…情に訴えるという、卑劣な方法しかなかったのだ。

「…邪な気持ちが無いとは言い切れません。私は今、衣食住のない人間です。身元を証明するものもありません」
「まぁ…」
「ここへ来たのもこんな自分でも雇ってくれるかもしれないという思いで来ました。ですけど…」

先程のピジョットの様子とヒサコさんの懸命な看病の様子を思い出す。あの時のヒサコさんは我が子を心配するように本当に心を痛めた顔をしていた。
果たして自分のあのような優しい感情がポケモンに向けられるか、それは分からない。

「けどヒサコさんが一生懸命ピジョットの世話をしてるのを見て私も…ポケモンの世話をしたいと思ったんです」

最初は此処にはただ自分だけの為に来た。生きたいが為に来たのだ。何と浅ましいのだろう。
雇ってもらうことだけを求めて此処に来た自分はこの人達に比べれば情けないくらい自分勝手だ。

「お願いします。働かせて下さい。最初はただ様子を見るだけでもいいんです。使えないと思ったらクビにして下さい。ですからどうか…」

深く深く頭を下げてお願いする。衣食住は欲しい。けれど今は何よりこの場所で働きたいという気持ちが強く働いて、自分のことなど後回しでもいいと思えたのだ。沈黙が続く。やはり駄目だったのだろうか。俯いたままやり切れない思いが心中を満たしていく。

「…最初は様子を見よう」

その言葉に勢いよく顔を上げる。驚愕の表情で二人の顔を見ると二人とも困ったような表情で笑いあっていた。

「そこまでお願いされては無碍に断るのも気が引けますしね」
「様子見だからお給金はあげられないけど代わりに衣食住を提供しよう」

断られると思った。赤裸々に自分のことを言ったのだ。普通なら断るようなことばかりを言ったのに。

「…いいん、ですか?」
「えぇ。けれどすぐにでも働いて貰いますよ?構いませんか?」
「大変だぞ?」

悪戯げに笑って言う二人に目の中に水が溜まっていく。それを零すまいと強く下唇を噛み締める。
許してくれたのだ。どうしようもない自分を。仮とはいえ雇ってくれた。

「ありがとう…ございます」

深々と頭を下げ感謝の言葉を言うと「頑張りましょう」という優しい言葉が掛けられた。

何気ないその言葉が自分には勿体無いくらいの宝物のように感じられた。


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