03


強い日差しが瞼を刺激してくる。網膜を焼くような痛みに眉に皺を寄せ目元に手を当てる。起き上がろうとしたところでふと体の気だるさを感じた。

「…?」

思い当たる節がなく首を傾げるとここ二日ほどまともに食事を取っていないことを思い出す。成る程。どうやら体が限界を訴え始めているようだ。流石にこれ以上食べない日が続くと体を動かすことは出来ないだろう。

そろそろ本格的に町を探さなければ。今日も森の中を彷徨い歩かねばならないのかと溜息を吐いた。

『…起きた…?』
「ん?」

するといつの間にか横にいたケーシィが首を傾げている。何故ポケモンが傍にいるのかとぼんやりとした思考で考えていると、ふと昨日の会話を思い出す。

「あぁ。おはようケーシィ」
『…ん。お早う。今から町に行く…?』

どうやら彼は昨日の口約束を覚えていてくれたらしい。どうやらこちらの心配は杞憂だったようだ。

「んじゃ早速お願いしようかな」
『…わかった。乗るね…』
「は?」

一拍後に来たのは頭への圧迫感。どうやらケーシィは頭に乗りかかってきたようだ。お陰で眠気は冴えたが無駄に頭が重い。

「何故乗っかるんだい?」
『…触ってないと、テレポート出来ないから…』
「なら私がケーシィに触るのでも良かったんじゃ」

頬を掻きつつ疑問を口にするとケーシィはのんびりとした風に言った。

『…乗り心地…良さそうだったんだ…』
「…そうですか。」

頭は重いが町に連れて行ってくれるなら強くは言えない。それに町につけばケーシィとはそこで別れる。これもいい思い出になるだろう。

「ならお願いします。ケーシィ隊員」
『…了解しました隊長…』
「ノリいいね。君」

不意に視界に映る景色が歪んでいく。どうやらテレポートをするとこのような現象が起こるようだ。
起こっている現象に感心していると段々と景色の歪みが消えていく。パキンッと乾いた音がしたかと思えばそこは森の中ではない、懐かしい人の声がする街並みが見えた。

「おぉ。すごいな」
『…ん。…』

実際に瞬間移動を体験すると感動もまた一入だ。取り敢えず頭の上に礼を言う。

「送ってくれてありがとう。これからケーシィはどうする?」
『…ん…』
「…寝てる?」
『…ん…』
いまいち反応の薄いケーシィに溜息を吐く。穏やかな寝息を立て始めていることから彼はまた睡眠に入ってしまったようだ。
彼とはほとんど会話をしていないが何となく好きなものは分かった。睡眠だ。睡眠以外にありえない。
とはいえ、そういう自分も睡眠をとることは好きだから文句は言えない。まぁ好きにさせておけばいいかと思い、働く場所を探そうと町を歩き始めたのだった。

先程見つけた看板で知ったのだがこの町の名前はコガネシティというらしい。コガネシティといえばジョウト地方とかいう場所にあった街の名前だ。人口も多くジョウト地方では首都並の扱いであった筈。

それを知った後、益々気が重くなった。どうしてもっと田舎の町に近い森に落ちなかったのだろうと思う。
こういった場所だとセキュリティや個人情報が重要視される。身元を証明するものがない人間を雇う場所などほとんどいないのに、この町だと雇ってもらえる可能性が格段に低くなる。

最悪、あの森に戻ってサバイバル並の生活を送るしかない。
面倒なことになった。異邦人に苦労は尽きないものなのだろうか。

何は兎も角。取り敢えずこの町で一番雇ってもらえる可能性がある場所に行こう。何よりこの世界に一番近く触れ合え、知識も得られる場所だ。
自分のような者が働かせて貰えるとは到底思えないが一か撥かやってみよう。

『…行き先、決まったの…?』
「おはよう。決まったよ」
『…どこ…?』

眠たそうな口調で聞いてくるケーシィ。力が抜けてきたのかずるずると落ちそうになる彼を両手で抱え支え頭の上に乗せる。

「それは行ってからのお楽しみ。それはそうとケーシィ。君はまだ森に戻らないの?」
『…くぅ…』
「…何となく読めてたよ。」

再び寝てしまったので両手はそのままに目的の場所まで歩きだした。

二十分ほど歩いた頃、漸くその場所は見つかった。

「…こ、ここか。」

バイトの面接の時を思い出す。緊張から動悸のする胸に片手を当て、一瞬躊躇ったのち木製の扉を何回かノックする。しかし返事がない。
首を傾げてもう一度ノックをすると今度は大きめの声を上げる。

「あの、すみません!」
「はいはい。少々お待ち下さい!」

今度はすぐに返答は返って来た。ギィという音共に開かれた扉の向こうには老齢の女性が小さなピジョットを抱いて立っていた。

「ごめんなさいね。今ちょっとこの子の看病をしていたのよ」
「え…」

それを聞いて腕の中にいるピジョットに視線を向ける。少し元気の無いピジョットに水を与えながら女性はにこやかに微笑む。

「すみません…お忙しい時にお邪魔してしまったようで」
「いいのよ。トレーナーさんかしら?育てて欲しいポケモンでもいるのなら奥の受け付けに待って頂けますか?」
「あ。違うんです。私はトレーナーではなくて」

慌てて否定すると女性は首を傾ける。

「じゃあ新人のブリーダーさん?ポケモンの育て方とか卵手入れの仕方でも教わりにきたのかしら?」
「ブリーダーでもなくて。あの、私をここで働かせてくれませんか?」

そう言って怖々と視線を向けると、一瞬驚いたような顔をしたけど朗らかな笑顔でその女性は迎えてくれた。

「どうぞ。お話は中で聞くわ」

この時の自分には感動のあまり育て屋のおばあさんが菩薩様に見えた。



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