02


飽き性な性格だとよく周りに指摘された。自分では執着しない性格だと思っていたが飽き性であることも自覚していたし治す努力もしようとは思わなかった。
ゲームに飽きたから途中挫折。この漫画は集めるのが面倒だからもう読まない。料理のメニューを考えるのが面倒だから昨日と同じものでいい。
飽き性と言っても周りには被害を及ぼしていなかったので放っておいても平気だと思ったのだ。

そのまさかそれが災いしてこんな状況に陥るとは思わなかった。我ながら昨日の判断は完全なる失敗だったと思う。
歩き続けて一時間ほどで水は見つかったので乾いてこびりついた血も落とせた。しかし食料だけは見つからない。木の実がなっているのはほとんど高い木の上で運動能力の低い自分では取ることも出来ない。
情けなく鳴り響く自分の胃の上を擦りながら木の実を探す。完全にサバイバル舐めていた。

「…はぁ…」

野生ポケモンに襲われないだけマシだが空腹もまた耐え難い。歩いた目印として木の肌に傷をつけているが果たして効果があるのか無いのか。
取り敢えず直進していけば何かには出会えるだろうと思いつつ天然の垣根を超えていく。「お。オレンの実発見」

掻き分けた先に見えたのは毒々しいまでの青いミカンだった。確かこれはポケモンが体力回復の時に食べていたものだ。多分人間でも食べられる筈。
何故かこの木だけ沢山なっているが気にしないでおこう。五つほどオレンの実をとるとすぐに皮を剥いて食べる。中身は青かったが普通に柑橘の果物の味がすることに驚きながらも一日ぶりの食事にもくもくと食べていく。

すると目の前の草むらがいきなり音を立て始めた。そういえばここはポケモンのいる森だった。今までは偶然にも襲われなかったが普通はパートナーの持たない人間が単身乗りこめば一瞬で死んでしまう魔の巣窟だ。今生きていること自体が奇跡に近い。

今更ながらに思い起される恐怖に体が強張る。不意に草むらが揺れなくなった。一体何が出てくるのだろうかとオレンの実を固く握り締める。

がさりと再び草むらが動く。その音に無意識に足が後ろへ後ずさる。

するとひょこりと顔を覗かせたのは狐のお面のような顔なケーシィというポケモンだった。確かケーシィはネンリキやらテレポートやら使える筈。
もし今ネンリキをされたら間違いなく避けられない。思わず身構えるとケーシィは暫らくこちらの顔を凝視してくる。

『……あ……人間。』
「…はい。人間です…」

それ以上アクションを取らないケーシィに取り敢えず何もしないことを示すために両手を肩の位置に上げた。

『…何、してるの…?』
「えーと。何もしませんという意思表示をしています」
『…そうなんだ…』

そのまま双方押し黙るとケーシィがこちらに近づき無言で視線で訴えてくる。しかし読心術などもっていない普通の人間がポケモンの心を読める筈もなく、恐そる恐そる口を開く。

「あの?」
『…オレンの実…』
「あぁこれですか。」

どうやらケーシィが見ていたのは膝の上に置いてあるオレンの実だったらしい。

『…いいなぁ…』
「後ろになってますよ?」

ほらと視線を自分の視線の後ろに向けると驚きの光景が目に入った。先程までまさに豊作の木であったオレンが全て花に戻っていたのだ。

「あれ?」
『…今の時期は、オレンはならない…』

では先程のオレンの実が沢山なった木は夢であったのだろうか。しかしそれだと今膝の上にあるこれはなんだというのだろう。

不可思議な現象に首を傾げつつ、取り敢えずケーシィの視線を反らすためにオレンの実を二つケーシィに差し出す。

「取り敢えずこれ差し上げますね」
『…いいの…?』

首を傾げて問うてくるケーシィに一つ頷く。空腹だったから多めにとったものだ。食べ切れなかったら残りは夕飯に回す予定だったがこの際あげてしまおう。夕飯はまたさがせばいい。

『…ありがとう…』
「いいえー。あ。そうだ。町ってどっちの方角行けばいい?」
『…テレポートで、送ってあげようか…?』

思わぬケーシィの言葉に驚く。

「いいんですか?」
『…ん。説明は苦手だから。送る方が簡単だし…』
「それは有り難い。宜しくお願いします」
『…よろ…くぅ…』
「おーい。ケーシィー?」

突然会話の途絶えたケーシィを揺すってみると小さく寝息を立てていた。睡眠に入っただけのようだ。
どうやら町までの道のりは大丈夫そうだ。いきなり寝てしまったケーシィに大きく不安は残るが約束は果たされるだろう。
根拠などないが多分このケーシィは悪い奴ではないだろう。もし今のケーシィが演技だったとしたら騙された自分が悪いとと諦めるしかない。

「まぁ…いっか。」

穏やかに眠るケーシィを横目に欠伸を洩らすと静かに瞼を閉じたのだった。


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