誰も俺のことなんて見ちゃいない。
 皆が興味あるのは、取り付けられた『付属品』にだけ。

 「世界チャンピオン」とか、「最強のベイブレーダー」という肩書きしか見てくれない。
 誰も『木ノ宮タカオ』という人間には興味が無い。


 能天気で前向きで、何時も笑ってなきゃいけない…なんて。そんな役目を一体誰が決めたの?


 その理想から外れたり、少しでも失態を見せたりしたら、向けられる瞳は途端に落胆だとか蔑みの色に染められて。


 違うよ。俺は此処にいる。

 どうしてこっちを見てくれないの。

 俺は『木ノ宮タカオ』なんだ。

 お願い


 俺を 見て。





………

 タカオが静かに話し終えた直後、その場は何とも言えない重苦しい空気に満ちていた。

 きっかけは何だったか知らない。唯偶然に休憩所で出くわして、会話を続ける内にポツリと漏らしてしまっただけだ。

 もしかしたら彼なら分かってくれるかも…なんて。愚かなことを考えてしまったのかも知れない。


 彼は手に持っていたスポーツドリンクを一口だけ口に含むと

「くだらねぇ」

そう笑って一蹴してしまった。

 いっそ清々しい程の冷酷さに、覚悟していたとは言え、それでも心の何処かで傷付いてる自分に気付いてしまう。
…嗚呼、やっぱり駄目だった。


 そんな落胆を感じ取ったのか、その思考を途切れさせるように「勘違いするな」と声が聞こえて。

「俺が言ったのは、手前の周りにいる奴等に対してだ。自惚れるんじゃねえよ、何言われようが期待されようが、手前は木ノ宮タカオっつー人間だろうが」

俺は手前に一度でもそれ以上のことを望んだか?


 細められた瞳は柔らかかった。
 言い方は酷く不躾なのに、ソレは今迄与えられてきたどの言葉よりも、よっぽど人間らしくて温かくて。


「俺を…見てくれるの?」

「俺を

愛してくれるの?」


 驚愕と歓喜に見開かれた瞳から一つの結晶が転がり落ちた。
 真っ直ぐに逸らされることのない相手の眸を見つめる。


 彼はガリガリと首の後ろを掻いて嘆息してポツリと言葉を溢す。

「愛するとか愛さないとか、そんなん面倒臭ぇし解んねえよ。唯」


「俺は優しくなんかないが

一緒には居てやるから」


 そう言って、タカオの身体をキツく抱き締めた。
 片腕で足りる程、タカオの身体は頼りない程に華奢だった。背に腕を回して少しの隙間も無くなるようにとピタリと身体を寄せる。



嬉しい

貴方だけが本当の自分に気付いてくれた

この独りぼっちの世界で、初めて貴方だけが俺を見つけてくれたの


嗚呼
なんて 幸せ





 ずっとずっと探していた。

 自分の姿すら見失ってしまう程の眩しすぎる白い世界。
 この日待ち望んだ一滴の黒が落とされて漸く、タカオは心の底からの微笑を浮かべることを許されたのだった。



end.










敢えて"白い世界"にしたのは
それでもやっぱりタカオは光だと思うから

安息の暗闇を堕としてくれるのはボリスだと良い

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