(※レッドをイメージして書きましたがシルバーでも大丈夫です。お好きな方でご想像ください)
汗と自身の身体の熱を吸い込んで、やけにべとりと重く貼り付くシーツ。
痛む頭と腰を無視して立ち上がるが、よろけて足にシーツを絡ませたまま、結局はまたベッドサイドに腰掛けてしまった。
軋む身体にハアァと重い嘆息を洩らす。
いい加減慣れたが、あの男と交わうと毎回無理を虐げられ、こうして身体が悲鳴をあげるのだ。
もう少しあの男には我慢というものを覚えてほしいと、涼は心の底から思っていた。
ふと何の気なしに見下ろした己の身体に無数の紅を見とめ、自然、キュウと眉間に力が入り今度は遥かに呆れの意味合いの強い溜め息が漏れた。
「何考えてんだか…」
自分で見える範囲にある印にそっと指で触れ、その多さに辟易する。
彼は……キースは情事の時には何時も執拗なほど涼の身体に印を残していく。
まるでコレは己のモノなのだと云い聞かせるように、強く、強く。何度も口付け華を咲かせ、眺めては満足そうに笑むのだ。
ソレは痛いほどで、同じ場所を何度も吸い、付けられた当初は鬱血して紫色になるくらいだから相当なものなのだろう。
これが普通の人ならどれくらいの時間で消えるかは知らないが、多分二週間や其処らでは消えないのではないだろうか?
少なくとも自分の場合、翌日の昼まで保った記憶は無いに等しい。何故ならこの身体の構造の所為で、今こうしている内にも所有の証はどんどん薄くなってしまっているのだから…
何となく名残惜しい思いはあるが、隼人や恵辺りにバレたらとんでもない騒ぎになるだろう事は分かるので日常生活を送る上で余計な詮索をされることはないから助かってはいるのだが。
だから別段困ることではないのだけれど。
(……何で)
こんなにも非生産的で、無意味とも呼べることに彼は固執するのだろうか。
(結局は痕に残らないんだから、意味がないじゃないか…)
本当は何時も自分が離れていってしまうのではないかと不安に苛まれている故にこうして主張し続けているというのなら。
嗚呼 本当に彼奴は馬鹿だ。
眠りに就くまでは確かに隣に居た主は、何時も涼が目を覚ます頃には姿を消していて。
(そうして出ていく頃に帰ってくるんだ―)
涼は既に冷たくなっているシーツに身体を横たわらせ、何かに耐えるようにグ、と瞳を閉じた。
閉じた瞼に浮かび上がるのは、悔しいことではあるが不適に笑う金色のあの男だ。
何とも言えない寂寥感に瞼の上から腕で覆い、ジッと涼は考え込んでいた。
こんなにも中途半端な事をするくらいなら、いっそ
閉じ込めて、何物にもこの姿を晒すことを嫌悪してほしい。
この瞳に色付くことの無い世界を映すことを叱ってほしい。
何も考えられないくらい何も手に付かないくらい抱き締めてキスをして。
貴方の事だけで一杯にしてほしい。
なんて浅ましくも愚かしい欲望だろうか。
否、ソレは羨望にも似ていて。
只こうして見つかることのない答えを探しながら自分は何時もあの男を待ち続けているのだと。
知った時、果たして彼はどうするのだろう。
何を馬鹿な事を考えていると呆れるだろうか。
そんな物は唯の傲慢だと笑うだろうか。
それとも…
(それとも――…?)
嗚呼 せめてこの感情が恋と呼べるものなら良かったのに。
.fin.