聞き齧ったことをそのまま試すような幼子の好奇心。直結な思考に苦笑いながらもシルバーは口を出す事もせず見守る。

 引き吊れたような傷痕をもう一度指先で確かめて、ちゅと小さな音を立て口付けると、舌先でなぞりながら時折吸い付くように唇で触れていく。
 それぞれの傷を丁寧に辿って、ちらりと上目遣いに男の様子を伺う様は否応もなく愛らしい。


「きもちい?」

 何処か舌足らずのような甘く稚い問い掛けに「くすぐったいだけだ」と返せば、なんだと残念ぶった声音にしては屈めていた身体を起こし随分楽しそうに笑う。

 少しだけ離れた熱を惜しむように、今度は文句も制止の言葉も言わせる間もなくシルバーの方から噛み付くようなキスを仕掛けてやった。

 突然の反撃に、涼は驚愕したように目を見開きビクリと身体を強張らせ、次の瞬間には止めさせようと藻掻きだす。
 しかし背中から回された腕に肩を押さえ込まれ、もう一方で男の下肢に押さえ付けるよう腰を抱き寄せられれば、それだけでもう涼に逃げ場は無かった
 頬の内側や口蓋の凹凸を余すところなく舐め回し、やがてクチュリ…と唾液を飲み込む音が甘い空間を震わせ、其処で漸く口腔を嬲っていた舌がずるりと抜け出ていく。

 腕の中の涼を見ればとろり蕩けた表情で荒く息を吐き、潤んだ瞳はもっとと強請るようにシルバーを見返している。
 ちろりと覗く濡れた赤い舌に誘われるようにもう一度その唇に吸い付いて、シルバーは意地悪げに問うた。

「それで、俺はもうお前に触れても良いのか?」

 それにパチクリと目を瞬かせきょとんとしていた涼も、言われた意味に気付くと砂糖菓子のような笑みを浮かべ男の厚い胸に顔を埋めた。

「うん、一杯ぎゅーってして」

 どうにも口調が幼くなるのは酔った時の特徴なのだろうか。
 項を這い、髪に差し込まれた己よりも小さな手がその金糸を掻き乱す。
 ゾクゾクと背筋を掛け上がる情欲に逆らわず子供の身体を白い革張りのソファへ押し倒すと、そのまま首筋に顔を埋め強く吸い付いた。

 一瞬だけ散った紅に、しかし次の瞬間にはもうそれは痕跡も残さずに消える。名残惜しい気持ちを覚えながらも、軽い傷なら瞬時に治ってしまうこの身体だ、今更の事ではないかと気にせず行為を進めていく。
 項から鎖骨を辿るように舌を滑らせていけば、小さな笑いを溢しながら擽ったそうに組み敷いた肢体が揺れた。

「アッハハハ……フフ」

 大変可愛らしいが、なんと色気のない事か。まぁ普段は声を出さぬよう唇を噛みしめ耐えてばかりなので、こんな姿も新鮮で良いかもしれない。
 しかしそろそろ艶めいた空気に切り替えてもらいたいと思うのは仕方ない事だろう。

 シャツの合間から掌を忍び込ませ薄い胸をまさぐる。
 全体で撫で擦るように這わせれば、その内に掌の薄い皮膚に擽るように引っ掻かる突起の反応が返ってきた。

「は……あ、ぁ…」

 細く小さく絞り出される吐息がシルバーの金髪を揺らす。酒が入っていることもあり、首に回された涼の腕は驚くほどに熱い。
 肢体もうっすらと桃色に色づき、しっとりと汗ばんでいく少年の身体はシルバーにとってはこれ程にないご馳走だった。
 カチリと合った視線に見せつけるように舌舐めずりしてみせれば、涼の喉がコクンと小さく鳴った。


ああ、このまま喰らい尽くしてしまいたい

 物騒な思考に捕らわれつつも、極力この少年を傷付けないようにと働く理性が残っている事に、シルバー自身苦笑せざるを得ない。
 焼きが回ったと言えばそれまでだが、涼の所為でだろう丸くなってしまった自分が嫌いではないと思えるくらいには感謝しているのだ。

 その感謝と愛しさを込めて歯形が残る程の強さで肩に齧りつき愛撫を再開させる。
 涼の首から胸元を彷徨うシルバーの手も負けず劣らず熱く、労るようなその動きの心地よさにウットリと涼は瞳を閉じた。

「シルバー……しるばぁ…」

 舌足らずに呟かれる名前。何度か溢された小さな喘ぎに、フゥー…と長い溜め息の後、そのままパタリと静かになった。


「……」


 嫌な予感だ。否、行為を始める前から懸念はあったのだ。
 流されるままに事を運んでしまったが、涼が酒を飲んだ事と睡眠不足な状態を考えれば自然と弾き出される結果ではあった。それでも己の手腕ならそんなつまらない事態に陥る事など無いだろうと過度な自信から頭の角に追いやっていた。


 恐る恐る視線を上げた先、それはそれは気持ち良さそうに眠りに落ちた子供の姿があった。

 思わずガクリと肩から崩れ落ち涼の肩口に顔を埋める。
 しかし己の体重で少年を押し潰さぬよう肘で身体を支えているあたり、流石としか言いようがない。
 兎に角眠ってしまった子供を寝室へと移動させなければならないだろう。乱れた衣服を整えてやり横抱きに抱えあげれば、安心したように擦り寄ってくる身体に溜め息を吐いた。


 翌朝、昨晩の記憶が全く無い上に課題が終わらなかったと憤慨する涼の姿に、この子供に酒を与えるのは今後暫く止しておこうと今更な事を心に誓ったシルバーだった。


.end.


ハナキリンの甘いお願い(キスミークイック)






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