4 まどろみにひかりさす



 魚人島の外れ、海の森。海流が交わり陽樹イブの光が燦々と降り注ぐ春の午後のように穏やかなそこには、サンゴが広がり、サンゴを住処とする生物が集まり、更にその生物を食べる生物が集まり……と非常に豊かな生態系が築かれている。海が万物の母である証左のようなその場所はしかし、魚人島の民はあまり近寄りたがらなかった。何故ならば、そこには多くの沈没船が流れ着くからであった。生物に不可欠な栄養を運んでくるその海流は、旅の途中に無念の死を遂げたであろう船も運んでくる。そもそも、地上の誰しもが憧れる魚人島は海底一万メートルにあるうえに、道中は未知の生物と強大な海王類に彩られた暗闇の世界。偉大なる航路を抜けてきたといえど無事に魚人島までたどり着ける船は三割に留まり、故に多くの船が流れ着くのだ。

 生の溢れる光の中に、死を想起させる廃墟と化した船。無論、沈没船というものは海中の弱い生物にとって恰好の住処となっており、いくら「船の墓場」などと呼ばれようとも命の営みに満ちた場所であることには間違いない。それでも誰かの死や無念が明確に感じられるのは普通の感覚を持った者にとってはたいそう不気味らしかった。だからこの場所に来るのは、海の森を研究している者、度胸試しの子供たち、それに余程の変わり者だけだった。

 人魚の少女が横倒しになったマストに座っている。彼女の分類は余程の変わり者。日がな一日この暖かな海域で過ごしては重い鰭使いで中心街へと戻っていくのだった。特段何をするわけでもない。ただ、彼女は誰とも会いたくなかった。だからこの人気の少ない海域に居る。

 つい、と少女の鼻先をルリスズメダイが通り過ぎていく。人魚であるので彼女は魚たちと会話できたが、彼らは存外自分のことにしか興味がない。話しかけない限りはこちらへ言葉を投げかけてくることもなかった。時折世話焼きのクエや幼いネコザメが声をかけてくることはあったが、同じ人魚や魚人を相手するよりはいくらかマシだった。彼らの言語は水を震わすあぶくの音。海藻のざわめきと一緒になって海底を漂っていくそのメロディは彼女を包み込んで隠してくれるような気がしたのだ。

 彼女が同族を忌避する理由を説明するには、彼女の身の上話をせねばならない。早い話が、「疎外感が募るから」である。決して、「醜いと後ろ指を指される」だの「気味が悪いと石を投げられる」なんて人間的な理由ではないのだ。魚人や人魚は見た目で差別することはしないからだ。タコの人魚であれば尾鰭ではなく吸盤のついた触手が八本あるし、シュモクザメの魚人であれば目は左右に大きく離れている。彼らには人間のような「標準的な容姿」というものが存在しないのである。

 さて、彼女の出生についてである。彼女は魚人島の、平凡な家に生まれた。父はタラの人魚、母はクマノミの人魚。彼女はそんな親から生まれた、ニシオンデンザメの人魚だった。人魚や魚人というものは、親の種類に寄らない。過去一度でもその遺伝子が混ざっていればその種が発現するのである。タコの魚人の夫婦からマグロの人魚が生まれることなんか彼ら種族にとって日常茶飯事なのだ。

 一般的に人魚は、魚人に比べて魚種の影響を受けづらいとされている。彼らの身体が人間と水中生物で半分半分であるとするならば、人魚の人間と同じ構造の部分は上半身。すなわち下半身しか影響を受けない。ねずみ色のサメの腹はざらりとして寒冷海域でも平気なよう脂肪を蓄えており大変にやわらかだ。どの鰭も他のサメに比べてやや丸っこい。サメの特徴とも言える第一背鰭でさえもゆるやかな鈍角だった。

 しかしながら彼女の種であるニシオンデンザメの主となる特徴は、長寿だ。更に正確に言うならば、成長の遅さ。通常の人間、及び人魚・魚人の十分の一でしか彼女は成長しなかった。即ち、周囲がおとなになる頃やっと、まともに泳げるようになったのである。現在彼女は九十歳を超えているが、その見た目はただの少女である。丸い輪郭の顔、大きな瞳にもちりと柔らかそうな頬、くびれの無い胴。更にそれを隠すオーバーサイズのコートを纏っているため袖が余っており、余計に子供っぽさを演出している。なおコートは特殊素材でできており、水に浸しても決して重くなることはなかった。空気の存在するエリアと水中エリアを交互に行き来することの多い魚人島の民には欠かせない素材である。この国を覆うことにも使うシャボンを利用しているらしい。

 長寿であるという彼女の形質を周囲の誰もが羨んだ。例えば人間がブロンドの髪や高身長を羨むような気軽さで。擬似的な不老長寿。全ての種族が追い求めるものを先天的に持っているのだからそれも致し方ないことなのだ。過去にいたはずの別のニシオンデンザメの人魚や魚人もきっとそうだったのだろうけれど、と少女の口から気泡となった溜息が漏れる。誰も彼女を理解できなかった。多様性のある種族だからこそ、差異には理解でなく目を瞑ることでコミュニケーションを図ってきた。それが少し考えればわかることであっても。

 彼女の人生は常に、置いていかれるものだった。仲良く遊んでいたはずの友人は気付けば子供のままの少女を残して大人になり、年老いていく。両親なんてもう随分前に死んでしまった。良くしてくれた近所のお菓子屋の店主もそれは同じ。同じ空間に生きているはずなのに、周囲は自分を残して先へ先へといってしまう。魚人島の人口は五百万人。そんな中で暮らしていても、彼女は孤独だった。同じ時間の中で共に生きてくれる人がいないのだから。同じ年頃だったのにどんどん話は合わなくなって、気付けば対話すらままならない。皆が彼女を「過去の思い出」として扱う。彼女はまだその過去を現実として生きているというのに。

 だから彼女は一人でいることを選んだ。時の速さは相対的だ。周囲に誰もいなければ自分が速いか遅いかなんてわからないで済むのだ。それに一人でいれば、置いていかれることもない。

 最早呪いだ、と彼女は思う。尾鰭を動かせばふわりと砂が舞った。呪いならば自分が自分であることをやめればいいのか、とよくわからない思考をして親がくれた名前も無かったことにしてみたけれど、それでも何ら精神状況に変化はみられなかった。ただ、自分の存在がおぼろげになって、それまで認識しないようにしていた希死念慮がはっきりとした形を持ってずしりと胸のあたりにのしかかるようになっただけだった。

 気付けばあたりはうすぼんやりとしている。陽樹イブは地上の光を海底にまで届けているだけ。つまりもうすぐ、夜が来る。深海ザメ特有のもたりとした腹を浮かせ、のろのろと彼女は回遊を始める。ああ、眠ったまま目が醒めなければいいのに。それか、もういっそ海に蕩けてしまいたかった。意識すら曖昧になって、遍在して、そうして海と一緒になって何もわからなくなってしまえばきっと、こんな思いをしなくて済むのだから。


「…シャーリー」

 もう誰もいない冷たい家。ドアの前にふよふよと黒い人影が浮いている。腰をぐるりと一周するシャボンがやけに大きく見えるほど幼い人魚だ。黒いフードをすっぽりと被った彼女は名前を呼ばれてくるり、と少女の方を向いた。

「またお話、聞きたくて」 

 おかえりなさい、と付け加えてシャーリーは言った。彼女は何故か困ったことに、少女に懐いていたのだった。たまたま海の森に迷い込んだシャーリーを保護して送り届けただけなのに、と少女は曖昧に笑う。道すがら彼女に語った話がどうも、シャーリーにとっては大変に面白かったらしい。最近の流行りなんかわからないからと思い出話、つまりシャーリーにとっての昔話をしただけだ。寧ろ興味を失ってくれれば幸いと退屈な話題を選んだはずだったのに。しかし少女は根っからの人嫌いではないので、結局幼いシャーリーの頼みを無下にすることはできないでいたのだった。

「いいよ、入っておいで」

 かちゃん、と鍵を開けて灯りを点け、手招きをする。家族三人で暮らしていたのはもう十年以上も前のこと。すっかり広くなってしまった家の中は、勝手知ったるはずなのにどうにも他人の家のようだ。がらんと開けた冷蔵庫には甘味やジュースの類が一切入っていない。仕方がないので、シャーリーには少し大人びて温かいお茶で我慢してもらおう。

「…わたしの話、聞いてて面白い?」

 こぽぽ、とやかんに湯を沸かしながらシャーリーに問う。少女が語るのはただ、昔あったことに過ぎない。リュウグウ王国の歴史として語られるようなものもあるし、それを当事者から語ってもらうのは新鮮かもしれないが……決してそれを三才かそこらの子供が面白がるとは思えないのだ。

「うん!だってかこは見えないんだもん!」

「見えない?ああ、占いのことかあ」

 元気よく言ったシャーリーになるほどなあ、と少女は納得する。シャーリーは未来を予言することが出来た。それが彼女の才能なのか、特殊能力なのかはわからなかったが、彼女の予言はかなりの精度だった。だから王国兵までもが彼女の言葉を信じている。そんな未来が見える少女にとって、見えない過去の話を聞くのは確かに興味深いことなのかもしれない。

「…じゃあ、わたしの死ぬとき、見える?」

 面白半分で少女は問うた。シャーリーの予言が当たるのならば、きっと自分の死期すらも言い当ててみせるはずだ。

「まってね……ううん……十よりもずうっとあとだよ」

「そっかぁ」

 やっぱり、と少女はハリボテの期待を溜息にして吐いた。自ら死を選ぶ勇気を持つことは少女にできないらしい。わかっていたけれど、突きつけられれば予言と言えど堪えるものがある。

「あっでもね、でも!もうすぐ『うんめいのであい』があるよ!」

 死を言い当てることはやはり気が滅入るようで、反対にぱあ、と明るくなった声でシャーリーは言った。まるで午後の海の森みたいだ、と少女は思う。

「本当?」

 少女の方も少しだけ声のトーンを上げてシャーリーの言葉に身を乗り出した。でも決して信じてなんかいなかった。だってシャーリーの言葉が予言だということは彼女にしかわからない。もしかしたらこの希死念慮に塗れた少女への優しい嘘かもしれないのだから。

「ばしょはね、うみの上…すなはまと、空がずっと続いてる…」

「地上かあ」

 映像として見えたであろう情景を必死に伝えようとするシャーリーに、少女はそう助け舟を出した。魚人島は海底一万メートルにある。島民のほとんどが大気というものを感じたことがなく、本物の空を見て感動したと語る冒険者さえいるほどだ。少女は、過去に数度地上へ行ったことがあった。女の人魚は齢三十を超えると尾鰭の先が分かれさながら脚のような機能を得る。折角歩けるのだから、と遠い昔に母と共に無人島を歩いたのだ。指はなく鱗も生えたままだが、それでも陸上生活に適応できる。少女も例外ではない。身体はまだ第二次性徴期前のものではあるが、きちんと二足歩行をすることができた。この現象の理由は未だ解明されておらず、科学者たちも頭を抱えているのだとか。

「そこでね、うーんと…にんげんの男の子とであうの!」

「人間と?」

 これは信じてもいいのかもしれない、と少女はシャーリーの予言を促した。見たことのない空を未来に見たのだから、あるいは。幼児特有の想像力の産物として捉えることもできるが……大人びたシャーリーが予言に妄想を混ぜるとも思えなかったのだ。どうだろう、その男の子は自分に何をもたらすのか。最終的に自分を殺してくれるのかもしれない。その子も自分と同じで成長が遅いのかもしれない。はたまた、悪魔の実の能力で人並みの成長速度にしてくれるのかもしれない。そんな少女の消極的で豊かな妄想は、しゅんしゅんとやかんが湯気を吹く音に遮られることとなる。

「…ありがとう。じゃあ今日は何の話をしようか」

「いいえ!えっとね、まえの王さまの話を聞きたい!」

 わかった、と返事をしながら少女はティーポットに湯を注ぐ。母が好きだったというだけで買っている茶葉はふんわりと良い香りを上げている。予言に気分が浮かれるなんて馬鹿みたいだな、と思う少女だったが、それでも自然と鼻歌が漏れてしまうのだった。

○○○

 ああ、と少女の口から溜息にもなりきれなかった声が漏れる。またわたしはここに戻ってきてしまった。沈没船の折れた竜骨に腰掛けた少女はゆらゆらと尾鰭を動かし徒に砂を巻き上げる。海の森は今日も穏やかだった。

 結局、シャーリーの占い通り彼は少女の運命だったのかもしれない。ドレークと名乗った少年は何の変哲もないただの人間の男の子だったけれど、それでも彼との日々は少女に数十年ぶりの喜や楽をもたらした。いや、喜怒哀楽全てかもしれない。そういえばあそこまで心から笑ったのも、今現在憤ったり哀しんだりしているのも、もう随分と久しぶりの感覚だった。できることならずっと彼と一緒に居たかった。当然のように少女が大人の身体になる頃、彼は既に老人になっているだろうけれど、それでも良いと思えたのだ。何にそこまで惹かれてしまったのかはわからない。少女と触れ合っているドレークの反応は、今まで出会って先へ行ってしまった友人たちと何ら大差なかったはずだ。違うところがあるとすれば、少女に名前をくれたこと。ドレークと出会うまで、少女は自分が名前を捨てたままであることすら忘れていたのだった。

「…名前はイサベル、愛称はベリータ」

 海中では空気の中よりも遥かに音が伝わる。ただ呟いたつもりだったのに三メートルほど先のウツボがこちらを向いたので、イサベルは慌てて独り言だよ、と微笑んだ。無意識な声の出し方すら地上のルールに従ってしまっているのか、彼との日々は案外長かったんだな、と思うとどうにも寂しくなって、彼女は胸を掻き毟りたくなった。どうしてこんなにも苦しいのだろう。また一人、友人が遠くへ行ってしまっただけだというのに。

「……おねえさん?」

 突如聞こえた女の子の声に、イサベルは身を強張らせる。眼鏡を一度外してごしごしと目元をこすってから、なあに?と振り返った。

「おひさしぶり、だね」

 そう言ってにこりと笑ったのは、随分と身体の大きくなったシャーリーだった。被っていた黒いフードはレースのあしらわれた可愛らしいヴェールになっており、右目は黒く綺麗な髪を伸ばして隠している。

「……随分、おねえさんになったね」

 海の森へ一人で来たことを咎めるのも忘れてイサベルはそんな、他愛もない言葉を口にした。

「どうしたの?」

 イサベルの憂鬱を汲み取ってか、シャーリーは小首を傾げる。彼女はイサベルの座った竜骨の隣にある小さな岩に、持ち歩いているらしい水晶玉を腹の上へ乗せた。

「えっと、うらない、上手になったんだよ」

「……そう」

 あした魚人島に来る船は三せきかな?と言うシャーリーに、イサベルはどうしていいかわからなかった。きっと自分を気遣ってくれているのだろうけど、それを理解って微笑むことは、彼女には難しかったのだ。

「……『うんめいのであい』、あったよ」

「本当?」

 ぽつりと呟いた言葉にシャーリーは顔を明るくして、すぐに眉尻を下げた。自分の予言が当たったのは嬉しいけれど、イサベルの表情が芳しくないことに気付いてしまったのだ。

「でも、もう会えなくなっちゃった」

 思ったよりもからりとした声に一番驚いたのはイサベル本人だった。

「なんでかわからないけど、あの子といると楽しくて、時間なんか忘れちゃって、ずっと一緒に居たいと思った」

 それから、と紡ごうとした言葉と一緒に出てきたのは涙だった。海にすぐ溶けてしまうというのに、ぽろぽろと零れているのがしっかりとわかって、途端、まともに喋れなくなる。

「もっと、話、聞かなきゃだった、あの子を助けなきゃ、いけなかった、」

 しゃくり上げる合間の言葉ももう支離滅裂で、イサベルは自分ですら何を言っているのかわからなかった。また彼と会いたい、まだ話していないことがある、どうして――。火山が噴火するように感情が溢れていく。

「…っあの!あのね、わたしのうらないだとね!また会えるって!」

 泣きじゃくるイサベルに慌てふためいて、シャーリーは珍しく声を張り上げた。

「ずうっと先になるけど、また会えるの!いっしょに魚人島まで来る未来が見えたの!ね、だから、泣かないで」

 水晶玉に手を翳しながら言うシャーリーに、イサベルは顔を上げた。きらきら輝く深い青緑の瞳が全てに絶望しきったように淀んでしまっているので、シャーリーは唾を飲んだ。

「わたしにはその人のことはわからないけど、これが『うんめいのであい』の人なの、って見せにくるおねえさんは見えたよ。せの高い人だった」

 幼いながらに充分なほど知性を感じさせる切れ長な瞳を細めてシャーリーは言った。決して嘘ではなかった。彼女を元気付けるために急いで占いをしたのは確かで、その分正確性もいつもより欠如していた。しかし一瞬、おぼろげであってもそんな未来が見えたのは真実だった。嘘じゃない、とか本当だよ、と言えば優しい嘘を吐いているように思われる気がして黙ったままだったが。

「ごめんね、ありがとう」

 暫くの沈黙を経て、イサベルはそう返した。その声色がとても穏やかだったのでシャーリーは寧ろ怖くなってしまう。けれど彼女にできることはもう、何も無かった。

「だいじょうぶ、大丈夫だよ。本当に大丈夫。だってシャーリーの予言は当たるからね」

 少し目元を赤くしたイサベルは言った。

「なんか、その。ごめんね。そんな未来があるんだったら、わたし、泣いてちゃだめだよ。お別れには慣れっこだし」

 眉尻を下げて笑うイサベルに、シャーリーは曖昧な顔をする。自分の予言で彼女が泣き止んでくれて嬉しいけれど、一方で彼女の言動には危うさが透けていた。それはまだ幼いシャーリーにもひしひしと伝わるほどだったのだ。

「それにね」

 シャーリーの表情に対して、一層トーンを上げた声でイサベルは続ける。

「今から頑張れば、背の高いあの子と並んでもいいくらいの立派なおねえさんになれるかもしれないでしょ?」

「…なにそれ」

 一瞬だけきょとんとしてから、シャーリーはくすりと笑った。本気なのになあ、と言いながらイサベルも笑う。ままならない状況に気を遣ってか彼女らの周囲から離れていた魚たちも、その笑い声にひかれるようにゆらゆらと集まり始めていた。

 イサベルは彼の瞳の色を思い出した。空の底で見たドレークの瞳は綺麗な青で、まるで空を宿しているようだった。あの瞳が脳裏に焼き付いている。夢を語る彼の、眩しい瞳が。

 ドレークの夢は立派な海兵だと言う。それならきっと、この海の底にも情報は来るはずだ。彼が有名になればきっと魚人島へ訪れる人間からも話は聞けるだろうし、新聞にも名前が載るかもしれない。彼の名前を見聞きするのはいつになるだろう。出会いたくない、と海賊たちが恐れているのを聞くかもしれない。はたまた有名な海賊(ろくに海賊なんて知らないけれど)を捕まえたという彼の大手柄を報じる記事かもしれない。そう考えると先程までの悲壮感が嘘のように嬉しくなってしまって、イサベルはくるくるとその場で踊るように泳いでいた。


 果たしてイサベルがその名を見たのは、海賊にさえ恐れられる「海賊」X・ドレークの凶行に関する記事の中だった。

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