撫でられ上手はなでじょうず?



「疲れたか」
「っいえ、大丈夫、です…」
 うと、と瞼が落ちそうになる少女の頭を撫でる。体力のない彼女にとっては少々ハードな一日だったことは否めない。ビッグマムの子らの誕生日パーティといえば、この万国の一大イベントである。そして今日の主役はおれ達だった。側仕えという立場である以上いつもよりも大勢と接している。きょうだいだけでも八十を超える相手と喋り、プレゼントを運び、覚えたばかりの文字で相手の記録をし。
「あの、今日は。お誕生日おめでとうございます」
「…ありがとう」
 おそらく寝落ちてしまう前に伝えたかったのだろう。彼女からのプレゼントは、まだ十歳にならない幼い弟妹たちと共に作ったというドーナツだった。同じようにダイフクには豆大福を、オーブンにはクッキーを作ったらしい。手製のメッセージカードも添えられており、癖のある文字には思わず微笑んでしまった。
 美味な菓子に重要なのは良質な材料、十分な腕前。そして最後のスパイスに相手を想う気持ち…というのがこの家の教え。味も形も一流のそれには程遠い、けれど最終的に食べた者の心を動かすのはそこだ。いくら一級品を食べようと昔こっそり買い食いした駄菓子の味が忘れられないように、愛おしい相手の手料理が何よりも美味しく感じてしまうように。
「あの、いいですか、もっと、上」
 寝ぼけ眼の彼女の言う通り、膝上の少女を抱き上げて目線を合わせた。ふわりとした髪が広がって、よくできたドールのようだ。妹たちの着せ替え人形なんかではなく、ガラスケースに入って鑑賞されるだけの。
「ふへ」
「ム」
 白い手がこちらの髪に触れ、そのままさわ、と優しく動いた。少しだけ考えて、ああ、これは撫でられているのだとわかる。最後に撫でられたことなんかもう、何十年も前の話だ。思うにおれ達は一般的な子らよりもそんなことを受けていないから、特に。初めての弟だからと甘やかしてくれた兄も姉もいるが、それでもいつの頃からか気恥ずかしくなって断るようになってしまったし…なにより弟妹があれだけいれば一人一人に構うのも難しいし、自分自身も弟よりも兄になってしまった。
「あ、あっ、す、すみませ、!その、ええと、自分のされて嬉しいことをすると良いって、ブリュレ様が言ってて、いや、実行するつもりは無かったのですけど、」
「いや、いい。お前は撫でられて嬉しいんだな、ワラビ」
 はい、と少し申し訳無さそうな困り顔をした少女。正直良かった、と思う。正直最初は打算でこの国に連れてきたつもりだったが、いつしか少女の成長が喜ばしい自分がいる。妹が増えたのとはまた違う…と言えば以前歳の同じ弟に「まるで父親だな」とからかわれたのを思い出すが。
「悪い、眠いな」
 少女がかくん、と眠りに落ちる様を未来視して、そろりと彼女を床に下ろす。
「いえ…誕生日、おめでたい…ございますなので…」
「ほら、歯を磨いて寝ろ。いいな」
 ふわあ、とあくびしながら頷いて目を擦る少女を撫でた。ふ、と漏れた笑いにもしかしたら彼女も気付いているかも知れないが…まあ良い。誕生日で浮かれていた、ということにしてしまおう。

2019/11/25 Happy Birthday !

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