青い春は制汗剤の香りと共に



「今日は外食だって」
 放課後の教室。既に解き終わった宿題は彼らにとってあまりに平易だった。軽快な電子音を立ててロック画面に表示されたメッセージを一瞥しフェムは言う。午後六時にアーロンパーク。それに対してシーフードか、と育ち盛り食べ盛りなヨンジは少し不満げだ。しかしヴィンスモーク家の財布を握っているレイジュの決定だろうから仕方がない。
「六時ねぇ…」
 現在の時刻は四時五十八分。件のレストランは二十分もあれば着くはずだ。
「「やるか」」
 そうと決まれば、と二人はニヤリとして立ち上がった。広げていた問題集を乱雑に鞄の中へ突っ込んで、がたんと椅子もそのままに教室を飛び出して向かう先は武道場。
「今日はそっちが決めろ」
「じゃあカラテで」
 本人の認識に関わらずスポーツ万能とされる二人は、どの部活動にも参加していない。何度も聞かれた疑問には、二人はいつも「好き勝手できないから」と返す。彼らが求めるのは肉体の強化や上達、ましてや精神の成長なんかでもない。ただ純粋に、血が滾るままに拳を交えるのだ。正直それがルール無用の喧嘩であろうと構わない。だけどそれじゃあ面白くない。スポーツにルールがないと退屈なのと同じように、制限があった方が楽しいに決まっている。そもそも、ルールがなければ彼らに勝敗がつかないという理由もあるのだが。
 最初はフェムの方から持ちかけた放課後の青春に、ヨンジも既に虜だった。
「…遅い」
「まーたやってんだろあの筋肉馬鹿共」
「今週の洗濯当番二人に投げちゃおうかしら」
 午後六時十五分。何の連絡もないままの弟と共に生活する少女を待って三人はメニューを眺めていた。件の二人が駆け込んでくるまであと、五分。

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