小悪魔的に蠱惑する



「あはは、随分劣っちゃうプレゼントかなあ」
照れ笑いをしながら、レトは小さな紙袋を差し出した。カールしたライムグリーンのリボンが蝋で留められているのはさながら小さなドレスのようだ。彼は劣る、と言ったが決してそんなことは無い。彼はおそらく、幸福なことに僕が多くのプレゼントに囲まれているからそう思えてしまうのだ。そもそもプレゼントに優劣なんかあるものか。おめでとう、とその一言があるだけで心の奥底がむず痒いような、誇らしい気持ちになるのだから。
「お誕生日おめでとう、セベクくん」
「ありがとう!開けて良いか?」
「もちろん」
では早速、と丁寧に袋を開ける。幼い子供のようにバリバリと破っていち早く中を見たい気持ちをなんとか抑え込みながら。いや、レトからすればその方が嬉しいのか?そんなことを考える。
中から出てきたのは両手に収まるサイズの小箱が二つ。平たく長いものはごく軽い。一方の立方体に近いものは中に瓶でも入ってるのかごとりと重い。更に箱を開ける。
「万年筆と……インクか」
「そうそう。きみ、よくペン先潰しちゃうだろ?マジカルペンに比べたら使いづらいだろうけどまあ、スペアとして使ってくれたら」
レトは早口で言う。少し声が上ずっているあたり、随分恥ずかしかったのだろう。確かに目の前で自分の贈ったプレゼントを開封される時ほど緊張することもない。相手の反応もそうだが、あの包装紙を剥がされるときの、自分の心の薄皮を剥がされ丸裸にされていくような心地といったら!
「凄い、僕が欲しかったものだ!」
どうかな、と自信なさげだったレトの表情がぱあと明るくなる。筆記具といえば通常マジカルペンを使うことが推奨されている。魔法石のついたものを普段から身近に置くことで自らとマジカルペンの親和性を高めるためなのだという。しかしながら僕は筆圧が強すぎるらしく、たびたびペン先を潰してしまうのだ。その度になんとか覚えた魔法で直していたのだが、授業中はそうもいかない。だから正直、このプレゼントはとてつもなく嬉しいのだ。いや、レトからの贈り物というだけで舞い上がりそうなくらいなのだが。
「し、しかしこれを潰してしまったら……」
「その点は安心して。実はね、そのインクはぼくお手製でさ」
ふふん、と鼻にかかる息を吐いてレトは続ける。レトは魔法薬学が大好きだから、魔法薬学に関することになるといつも嬉しそうに喋るのだ。それもお手製のものとなれば特に。レトの場合、知識はもちろんのこと突飛なひらめきで魔法薬を生み出すので聞いてもわからないことが多い。でもそれを聞くのは、好きだ。レトの頭の中を覗いているような気になるというか、少しでもレトの言うことが理解できるようになればもっと楽しいに違いない。
「防御効果を祈り込んでいてね。ほら、授業でもやっただろ?石より強いガラスを作るやつ。あれを応用してペン先に柔軟性をプラス。潰すくらい力を入れちゃっても大丈夫!」
「なるほど……!」
素晴らしい、すごすぎる。脱帽なんてのも含めて言葉では到底言い表せないくらいにレトは才能に溢れている。企業がそんな商品を開発した、というだけでも感心してしまうのに、目の前の彼が、しかも僕のためだけにこんな発明をしてくれている!
「ふふ、喜んでもらえたようでなにより……ああでも、絶対的なものじゃないから」
ニコニコと笑いながらレトはぴん、と人差し指を立てた。そうしてするりとこちらの手を取る。
「女のぼくに触れるくらい、優しく扱ってくれよ?」
そう囁いて蕩けるように笑うのだから、途端に頬が熱くなる。ああもう、本当にレトはずるい!

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