13 終局シークウェル!



これは後日譚、というかことの結末。
 
 でぃんどーん、と鳴ったチャイム。待ってましたとドアを開ければ、セベクがこちらを見下ろしていた。手にはバスケットと、ペットボトルやらが入った透明な袋を持っている。
「失礼する!」
「おじゃまします」
 今日は週末。以前より企画していた勉強会もとい映画鑑賞会は予定よりも多い人数で行うことになった。
 学園中を騒がせた眠り姫事件は、案外簡単に幕を閉じた。もちろん生徒一人がオーバーブロットしたし、先生方を東奔西走させている時点で簡単でもなんでも無い。けれど眠っていた生徒はレトの言う通り指先をほんの少し針で刺せば皆目を覚ましたし、全員健康には何の問題もなかったのだ。寧ろ元気が有り余ってる!とか喉の痛みが治ってる!とか、そういった声まで寄せられたくらいだ。眠らされたエースも、なんかめちゃくちゃ調子いいんだよねーと、短距離走では丸二日眠っていたとは思えないほどのタイムを叩き出していた。どうやらレトは、とてつもない栄養剤を作ってしまったらしい。「思い返せば材料全部滋養強壮薬の材料だったなあ」とは彼の言だ。どんな化学反応を使えば眠り薬になるのかはさておくとして。
「セベクくんありがとうね」
「構わん。今晩は若様も課題に勤しんでおられるからな」
 彼の才能は捨てがたいというクルーウェル先生の主張。この魔法薬を然るべきところに売ればかなりの収入になるのでは?という学園長の思惑。そんなこんなでレトの処分はほとんどいつもどおりだ。つまりまたオンボロ寮が少し綺麗になっている。まあもちろんそれだけじゃ済まず、大食堂に一年生の教室も掃除したと言っていたし、なんなら反省文代わりに魔法薬作成に関するレポートを書かされたらしい。それが何枚だったかは聞いていないけれど、今日すれ違ったクルーウェル先生が持っていた紙束がそれだとすれば想像もしたくない量だ。ついでにいろんな先生方と寮長たちからお説教をもらっているらしい。医務室で療養中の彼の元へお菓子類を差し入れに行ったのも記憶に新しい。
「食堂のフライドチキンテイクアウトセットにチェリーパイ、みんな大好き炭酸飲料。あとはグリム用にツナ缶」
「ツナ缶!」
 いつ玄関まで来ていたのか、グリムはそう言って跳びはねた。今回彼らを招待したのは、レトがエースにお詫びの品を渡したいと言ったからだ。だから丁度週末集まるしついでに来ないか、と誘ったのだ。発案はエースとデュース。彼の魔法薬学の成績的にコネを作っといて損はないのでは?という話し合いは聞こえなかったふりをしたけれど。
「映画は何を見るんだ?人間」
「何って言ってたかな……確かホラー?だったような」
 こっちもよく知らないんだよね、と続けながら談話室へ。このために運び込んだ大きなテレビ(かなりの年代物)を前に、エースとデュースがリモコンを片手にソファに座っていた。ほとんどジャンク品のものをデュースが修理して使えるようにしたらしい。
「やっと来たか!」
「おまたせしちゃってごめんね」
「思っていたより綺麗だな……」
 テーブルにずらりと持ち込んだものを並べながら言うレトとセベク。二人の仲については野暮だと思って聞けそうにないが、別に問題は無いようである。今まで通り良い友人であるようだし……とはあくまでこちらからの視点。少なくとも仲違いをしていないことは確かだ。
「エースくん。ご迷惑をおかけしました。お詫びのチェリーパイです」
「そんなかしこまらなくていいって!いや貰えるもんは貰うけど!」
「貰うのかよ!」
「あと魔法薬学の課題定期的に手伝ってくれたらそれで全然……」
「それが本音か!」
「再生していいか?」
 いつも通りの騒がしさに、ふ、と笑いが漏れる。それはそうと、セベクとレトがいればツッコミは放棄できると思ったのにそうでもないらしい。ううん、まあ楽しいからいいんだけれど。

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