6 永続スリーピング!



「大変だー!」
 何かまた変な夢を見た気がするなあ、とぼんやりしているところにばん、と部屋に飛び込んできた声にびくっと肩を揺らした。
「ど、どしたのデュース」
「エースが目覚めない!」
「え?」
 一応プライベート空間なのに簡単に飛び込んで来れるなんてプライバシーも何もないなとか、まだ早いのに珍しいなあとか、そういうことを考えながら隣に眠るグリムを揺すり起こす。同世代の人間といえど魔法の使えない身、グリムがいなければ何の役にも立てない。グリム本人が拗ねるという問題以前に二人一組なのだから。
「だってまだ六時半だよ?寝不足とかなんじゃ……」
「違う、本当に目が覚めないんだ。揺すっても叩いても、大声で叫んでも反応がない。呼吸はあるんだが……」
「なんなんだゾ……まだ一時間も眠れるってのに……」
 デュースの真剣な表情は、こちらに嘘を吐いているようには見えない(そもそも彼はドッキリのような嘘は得意ではない)。目を擦りながらあくびをするグリムに事件だよ、と言って立ち上がる。
 
「エース、エース」
「落書きしてみるか?」
「いや既にやったが起きないんだ」
「既にやったの
 ハーツラビュル寮、デュースたちの部屋。確かにデュースの言ったとおり、何をしようとエースは起きない。落書きを一度消した跡も残っている。
「エース、今日は六時半からフラミンゴの餌やり当番だったから昨日は早めに寝てるんだ」
「何か悪いモンでも食ったか?」
 たしたし。いくらグリムが肉球で頬を変形させようと、エースは安らかな寝息を立て続けている。こちらの声なんか届いていない。彼はそこまで図太い方ではなかったはずだし、これは明らかな異常だ。
「餌やりに顔を出さないと思えば……」
「りょ、寮長!」
 二人と一匹でエースを覗き込んでどうするか、と頭を抱えている背後から響く、凛として冷たい声。誰でもない、ハーツラビュル寮長だ。
「すみません、エースがこんな状態なんで同室のフレッドに代理を頼んだんですが……」
「わかっているよ。しかし……ついにハーツラビュルでも、か」
 規律違反だしお叱りを受けるのか、はたまた首をはねられるのか、と自分のことでもないのに身構えたのに、彼の口から出てきたのは苦虫を噛み潰したような声だった。
「ハーツラビュルでも?」
「ここ数日、目覚めなくなる生徒……一年生がにわかに発生していてね。昨日の授業、人数が少なくなかったかい?」
「言われてみれば……」
 グリムの疑問に答えたリドル先輩にデュースが頷く。同じクラスはともかく、特に複数クラス合同の授業になると途端に欠席者が多かったように思う。休んでいる生徒に特徴はなく、最近は寒い日が続いていたのでてっきり風邪でも流行っているのだと思っていた。校舎内は暖かいが、どうしても飛行術なんかでは外に出る必要がある。普通の生徒は鏡を通って自らの寮へ戻るので寒暖差にやられたのかな、気をつけなきゃな、と思っていたところだ。
「魔法薬……眠り薬か?」
「何日も眠るなんてそんな、呪いの域じゃないですか!」
 エースの脈をとったり瞼をこじ開けたりしていたリドル先輩のつぶやきに唾を飲んだ。まるで、おとぎ話の世界だ。皆が眠って目覚めなくなるなんて一種のロマンチックさえ抱いていたけれど、いざ目の当たりにしてみると随分ホラーだ。それに原因が魔法薬らしい、ということしか判明していない以上、今日床についたら明日もその次の日の朝も目覚めない可能性だってあるのだと思うと恐怖しかない。
「今日寮長会議だったんだけどね。これじゃあ全校集会モノだよ」
 頭を抱えるリドル先輩なんて珍しい、なんて感心している場合ではない。きっと彼のことだし、「キミたちは気にせず普段どおり授業を受けたまえ」なんて言うのだろうけれど、友人の有事の原因が未知だからと大人しくできるほど、優等生でも薄情でもない。そう考えているのはデュースもグリムも同じらしく、視線を交わして頷きあった。
「……ろくなことを考えてない様子だね?」
 なんて、リドル先輩の言葉には滅相もない、と白々しく返事をしたけれど。

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