3 機密テラー!



「えーっと……ポテトチップスコンソメ味……チョコレートが三枚と……」
 学園内購買前。メモを渡してサムさんに用意してもらったお菓子を照らし合わせて確認しているところ。別にこれで暴飲暴食をしようというわけではなく、週末にやる勉強会の準備なのだ。まあもちろん勉強なんかするわけがない。集まる場所がオンボロ寮で、サブタイトルは夜通し映画パーティで、メンバーが自分のほかはエースとデュース、それにグリムなのだから。それでも名目を勉強会なんてものにしているのはリドル先輩が「期末試験の三週間前なのだから勉強に励むんだよ」なんて言っていたからだ。いや、ちょっとは勉強したほうがいいとは思う。良い子というわけではないけれど、それくらいの善性は持ち合わせている。平々凡々であるためには人並みに努力をしなければならない―それこそ赤の女王の言葉になぞらえるなら、そういうことだ。まあでも、彼らと一緒に騒ぐのが楽しくないわけがないので、大人しく流されるのだけれど。
「随分な大荷物だね。手伝おうか?」
「あ、レト」
 全寮制ということもあってか、購買はかなり夜遅くまで開いている。閉店間際であれば迷惑にならないだろうとこの時間を選んだけれど、自分の他にも来客があるとは。
「サムさん、ぼくには茶葉をお願いします」
「じゃあ……ハーツラビュル御用達!値段は張るけど女王も満足のこちらはいかがかな?」
「ふむ……うん、じゃあそれで!」
 小さな茶葉の缶を受け取ったレトは、にこりとサムさんに会釈をしている。やっぱり彼は品行方正。隙のない挙動は、誰もが彼に好感を抱くだろう。俗に言うイケメンだし、その立ち居振る舞いも少女漫画の中にしかいないような完璧具合。しかも王子様なんていう非現実的なものじゃなく、ちょっと探せばいそうな等身大感。ここが男子校じゃなかったらバレンタインなんか大事になっちゃうだろうな。男子校でも大事になりそうだけど。あれ、ここにもバレンタインの習慣はあるんだろうか。
「まいどあり!そうそう、小鬼ちゃん向けの商品があるんだけど……どうかな?」
「惚れ薬なら要りませんよ」
 レトとサムさんの会話が聞こえてくる。なんだか少し、居心地が悪い。もちろんサムさんはいろんな商品を仕入れているからいろんな生徒にセールスをしているし、こんな場面もよくあること。だけど、ここまで会話が丸聞こえなのはやっぱり、悪いことをしている気分になる。まあ二人がこちらを気にせず会話しているから聞かれたって困るものでもないんだろうけど。もう一回用意してもらった商品とメモの照合をしよう。
「おや、今回ばかりは強力だぜ?知り合いがオマケしてくれてね。少し値は張るけど」
「自分で作らなきゃ意味がないし、楽しくないでしょう?」
「swag swag swag!サイコーな魔女精神だ!でも良いのかい、友情の上に蜷局を巻いているうちに意中のあの子は……おっと!」
「ぼくはこれでいい!これでいいんだ!これでいいんですよ、ねえ……恋愛なんて永続性がないから、()は友情を、」
 突然のレトの声にドキリとする。彼はあまり、声を張り上げるような人ではない。兎にも角にも温厚で、どんなに意地悪なことを言われてもやんわりと顔色一つ変えずに言い返すような子だ。それを考えると、今の彼はおかしい。サムさんの発言は確かに少しだけ過激だったような気はするけど、あくまでよくある宣伝文句だ。掃除道具の広告にある「放っておくと汚れが……」みたいなものなんじゃないのか。
「OK OK、無い牙を剥いてまで威嚇しなくても。ごめんね、お詫びにこちらを」
「……いえ、こちらも取り乱してすみません。これもお金払います」
 そんなレトの様子にさほど慌てず、サムさんは紙袋を彼に手渡した。がさりと袋の中を見たレトは、心を落ち着けるように息を一つ吐いた。中身は何が入っているのだろう。それはともかく、険悪な空気ではなくなったみたいなのでこちらも一安心だ。
「ごめんね、監督生くん。あの寮まででいいかな?」
「う、うん。ありがとう。重くはないけどかさばるものばっかりだから……」
 行こうか、と微笑むレトはいつも通り。まるで先程の会話が全部無かったことになったみたいだ。独特の抑揚で聞こえてくるサムさんの感謝の言葉に二人でお辞儀をしてから、からんとベルを鳴らして外へ。
「はは、また買わされちゃったよ。商売上手なんだから」
「それ何?」
「ああ……素揚げというかスナックというか……ほら、昆虫食ってあるだろ?ぼくこれが好きなんて言ったことないのにさ」
「すごいね、サムさん……」
 元の世界でも時折取り扱われていたくらいだし、この世界にもやっぱりあるんだ。寧ろ種族も多いツイステッドワンダーランドではもっとメジャーなものなのかもしれない。なんて、この世界のことはわからないことだらけだと何十回目かの感想を少し。
「そうだ、週末に集まるんだけどレトも来る?」
「多分大丈夫だと思うけど……ぼくが行ってもいいのかな?」
「もちろん!セベクも誘ってよ!みんなでテスト勉強って名目で映画見るんだ」
「素晴らしく粋な企みだね」
 うん、と頷くと彼はやけに上機嫌に楽しみにしてる!と返した。スキップまでしそうなくらい弾んでいる彼になんだか、こっちまで嬉しくなってしまう。

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