04



 あの誘拐未遂から三日後。警察とか学校とかいろんなところに呼び出されて話をしてやっと落ち着いてきたくらい。なんだか一周回って他人事みたいに思えてきてしまって、大変だったなあといつもの保健室でやっとため息を漏らす。

 結局、わたしを誘拐しようとした二人は既に身柄を確保されたらしい。犯罪集団の下っ端とかで、仲間が怪我したからわたしの個性で治癒させようとしたんだとか。わたしの「こーんな目で、なんか黒っぽい服で、あ、あと身長は普通くらいで……車はよくある感じの……」なんて目撃情報で確保に至ったなんてすごいな、と思っていたけれど前々から追いかけている集団だったというわけだ。

 もちろんわたしは擦り傷一つない。まあちょっと怖い思いはしたけど、個性を盾に酷いことをする犯罪者が多い中では幸いなことなんだろう。あれからはできるだけ明るい道を通るようにしてるし、防犯ブザーも持ち歩くことにした。本当に、たまたまあの公園をランニングコースにしていた夜嵐くんがいたおかげで助かった。

 問題はわたしを助けてくれた夜嵐くん。彼はかなり正直なので、わたしを助ける時に個性を使ったと素直に申告したのだ。非常事態だったとはいえそう言われたら学校側も対処せざるを得なくなる。と言っても学校に植わっている樹木の剪定や草刈りを手伝わされる程度だった、と言ってたっけ。ペナルティを与えなきゃいけないけど今回に限っては悪いことではないし、と生活指導担当が悩んでいたところ、用務員さんが困っているという話を聞いた、ということらしい。個性の使用を認められたので、彼としてはちょっと違う視点からの斬新な個性訓練にもなったみたいだ。

 そう、あれから少し、彼との接点が増えている。というのも毎日一緒に帰っているからだ。ああいやお付き合いを始めたとかそういうのでは決してない。ないったら! 彼もわたしも寮生活で通学路は一緒。そして帰る時間も大体一緒になるということに気付いてわたしから頼み込んだのだ。いくら防犯ブザーを持っていたって通学路の途中にはどうしても暗い道があるし、そこに街灯をつけようにも時間がかかる。個性のせいでまた攫われても大変だし、ちょっとだけ一人で歩くのが怖くなってしまった。これは安全のためだし、異性交遊であっても不純では無いから多分、大丈夫。いやまあ彼のことが好きか嫌いかで言えば好きなんだけどまだそんな恋とかそういうのではないし気になる程度だしやっぱり助けてもらった恩があるしいやまああの思っていたより優しい風をしていたし彼のことは普通にかっこいいとは思うのだけれど

「先輩! お待たせしました!」

「っひゃい!?」

 また勢い良く開いた引き戸の音と、大きいけれど落ち着く声にびくんと肩を揺らす。もう最終下校時間五分前。

「すみません、急いで準備しますね」

 そう言って彼の方を見る。うう、さっきまであんなこと考えてたからちょっと戸惑ってるわたしがいる。ああもう、恋とか惚れた腫れたじゃないっちゃけど!

「大丈夫っスよゆっくりで!」

 彼は動作も声も大振りだけど、その分わかりやすいからかわいらしい。今もニコニコしているから、なんだか安心半分、ときめき半分って感じだ。いやときめきって何!? そんな一人漫才を脳内で繰り広げたり。ああもう、いつだって落ち着いた安心できる人でいたいのに!

「お待たせしましたぁ」

 一瞬だけ夜嵐くんが固まって、頬を赤くする。あれ、わたしおかしいところがあるだろうか。ブレザーのボタンを掛け違えてるとか? と自分の身なりを見るけど特に異常はない。彼はそんなわたしの様子に、あろうことかいきなり自分の頬を殴った。

「わ、ちょ、夜嵐くん!?」

 慌てて頬に手を伸ばす。良かった、出血はないみたい。一応氷を渡したほうが良いかな、なんて考える。彼はこういう、ちょっとすぐ行動に出るところが困ってしまう。まあそういうところも可愛いなんて……いやそんなこと思ってないんですよ! 本当に! 一人漫才もとい脳内会議は終わりそうにない。ううむ、高校三年にもなってやっと青春だったりしちゃうのかな、なんて。

 

 これはちょっとだけ鈍行な、わたしたちの青春の物語だ。 

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