03



「隣いい?」

「いいよ」

 数日後の昼休み。白亜はトレイにところせましと皿を並べてやってきた。彼女のために少しだけトレイをずらす。それにしてもすごい量だ。唐揚げにカツ丼、ラーメン、温泉卵とゆで卵が二つずつ乗ったサラダ。デザートにオレンジをまるまる一つ。なかなかなハイカロリー、よくあの小さい体に入るものだ。

「変身するとカロリー使うんだ。いただきまーす!」

 Vサインをしながら早速ゆで卵を一つ口に頬張る彼女。そうか、彼女の個性は体そのものを変形させる。それに伴ってかなりの熱量を使うことは想像に難くない。そういえばこの前彼女と放課後訓練をした時も帰り道にかなり大量の買い食いをしてたっけ。

「今日変身してたっけ、白亜」

「んんん、流石の慧眼」

 なるほどつまり、彼女はただ単に比較的大食いなだけらしい。まああの個性をしているというだけで基礎代謝が常人の何倍もあるのかもしれないし一概には言えないけど。

「そういえばメニューできた?」

「ん!」

 口にした後で隣を見れば彼女は頬を大きく膨らませている最中だったのでちょっと反省する。けれど頷きながら親指を立てているので出来上がったということなんだろう。俺も決してトレーニングのプロではないけど素人の彼女より少しは詳しいし、何より尻尾があるとやりにくいトレーニングも少なくない。仰向けができないので腹筋を鍛えるやり方もかなり変わってくる。

「じゃあ放課後でいい?」

「ありがとー! 本当に助かる……お礼に組手する?」

「組手は良いから」

 彼女はそんなに闘いたいんだろうか。いや、思いつく礼がそれしかないのかもしれない。確かに同世代といえど相手が喜ぶものなんてあんまり予想もできない。実際俺も彼女の立場だったら特訓に付き合うとか、無難にお菓子を渡すとかになりそうだ。

「キミやっぱり面白いなあ」

「それはこっちのセリフだよ!?」

 案の定けらけら笑いながら彼女は言う。彼女の方が余程面白い子だと思うけどなあ。それでいて……その。見た目も可愛い方? いわゆる美少女なのでちょっと変な気分だ。いや、仮に彼女がまともにしていたら耐えられそうにないので、これはこれで良いのかもしれない。なんて何の役にも立たない分析を少し。入学初日よりは慣れたといえど、まだまだドギマギすることだって多いのだ。

「やっぱり私キミのこと好きだな」

「んぶっ」 

 こんな風に。俺の青春は、どうやら勢い余って気管に入ってくるらしい。

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