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「ってて……」

 ずきずき痛む全身に顔を顰める。これだからスタン魔法は人権無視とか言われるんだわ。周囲を見回す。それなりに良いソファに寝かされていたらしい。研究室の一つってところだろうか。

「あ、目が覚めましたか、カヴュサン」

 そう言いながら水を差し出すエペルに助かる、と礼を挟む。巨大なスクリーンには野生動物の生態に迫るドキュメンタリーが映し出されていた。

「お目覚めかな? これを飲むといい。スタン魔法の後遺症は一時的なものだがわざわざ用意してくれていてね」

 隣にやってきたルークから栄養剤らしい瓶を手渡される。こういうのあるならもっと優しい魔法使えって話だよな。

「ここは研究施設の空き部屋みたいです。みんなの検査が終わるまで待っててって」

 独特な風味のする甘苦い液体を流し込む。嘘みたいに痛みが引いて、頭がやっと現状の把握を正常にし始めたようだ。監督生からの説明になるほど、と相槌を打つ。まあ、目的は達成できたし良いのか。皆無事で戻れるなら特に暴れる理由もなし。そもそもあんな兵士相手にまともにやりあえるわけがない。

「驚いたよ。本当に彼を殴るかと思った。迫真の演技、ってやつだね!」

「マジ? 流石に敵でもねえ奴殴らねえよ」

 ルークの言葉に笑いながら言う。そりゃ殴らない、というか殴れない。自分の筋力と相手の力量くらいきちんと弁えてるし。

「うお」

 そんな身近な談笑の最中。テーブルの上に置かれた菓子盆から一つ、チョコレートバーを手に取ったところでぶつん、と部屋の電気が切れた。

「停電?」

 誰からともなく声に出す。部屋の電気もつかなければ、タブレットも電源が入らない。間接照明の明かりでどうにか移動はできるが……ちょっと厳しいか。ドアも開かないんじゃどうしようもないな。何かあればこっちに、と言われていたバーチャルコンソールも、オペレータも返答がないようだ。

「グリム、大丈夫かな」

 監督生が不安そうに呟く。監督生はまだグリムに出会えていない。グリムが今無事なのかどうかすら把握できていないのは大層心細いだろう。数ヶ月といえど入学からこっち、ずっと二人三脚でやって来たんだし。

「どうする?」

「本部へ向かおう。非常事態のようだし、ヴィルたちと合流した方が良い」

 ルークはユニーク魔法で既にヴィルの位置を把握している。つくづく恐ろしい魔法だ。

「監督生くん、エペルくんは私の後ろに。カヴュくんは殿を頼めるかい?」

「了解」

 それが一番だろうし、と付け加えて伸びをする。さて、ただの停電だったら良いんだが。

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