12 これまでの冒険をセーブしますか?▽
「クジラか?」
「恐竜かもしれませんぞ、それも新種! 南の島の大冒険、その果ての化石発掘……
小学生の願望全部のせか?」
わいわいと集まってきた皆でその骨らしきものをしげしげと眺める。この一部分を見て判断するのは難しそうだ。オルトもデータ不足だね、と首を傾げている。
「掘ってみるんだゾ!」
「うーん、素人の僕たちがやって大丈夫なんだろうか。もし岩盤が崩れたりしたら……」
デュースの言葉にどうしよう、と頭を抱える。貴重な化石を台無しにしても大変だし、生き埋めになったりしたらもっと大変なことになる。そんな中でジャックが口を開いた。
「カヴュ先輩。透視ってできませんか? 視力強化なら俺たち一年もやったんですけど……イデア先輩のゴーグル使えばタブレットにそれを映せるんじゃ……」
「……いける! ジャックちゃんナイスアイデア!」
「僕の方にも投影したらある程度同定できるよ!」
「古生物はちょっと心許ないけど……まあ全体が見えたら属くらいまでは絞れるでしょ」
カヴュ先輩はマジカルペンを自らの眉間に近づける。パチリと青い光が弾けた後、イデア先輩のゴーグルを装着した。
「うお」
「
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接続完了。端末への出力を開始します
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」
「いや待てこれヤバ、は? 待てオルト、これ、」
突然慌て出したカヴュ先輩の静止もきかず、彼の視界がタブレットに表示される。本当に「ヤバイ」ものでも映っているのかと恐る恐る画面を見る。
「これは……クジラ?」
「画質悪いな。ちょい解像度上げるか」
が、しかし。そこに映っていたのはクジラの骨格だった。黒い背景に、うっすらとその姿が浮かび上がる。確かに博物館に展示してあるように全身がそのままの形なのは珍しいのかもしれない。それでも慌てる要素があるとは思えない。サイズも特別巨大なわけでもないし、骨を見てすぐ新種とわかるほどカヴュ先輩はクジラに詳しいわけでもなかったと思う。
「
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解析完了。ケトテリウム属の一種だと思われます
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初期のヒゲクジラだね。化石だよ」
おお、とその希少性がわからないなりにタブレットを覗き込んでは皆で感嘆の声を漏らす。
「お、オルト。材質。材質わかるか」
「材質? うん、わかるよ
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解析開始します」
「あれ、これなんか虹色っぽくないか?」
「解析終了
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すごい、すごいよ! これ、全部オパール化してる!」
「え!?」
皆揃って大声が出た。タブレットを再び覗き込む。虹色っぽい、とデュースが言ったのは見間違いではなかったのだ。
「オパールって……あの宝石の!?」
「アンモナイトが宝石になる、みたいなもんですか。博物館で見たような」
「それとはちょっと原理が違うんだけど、ごくごく稀に化石そのものの……アパタイトだっけか。それがケイ酸になることがあるんですわ。珪化木とかも広義じゃそう。まあ元々オパールも埋没した化石がケイ素と置換することでできるやつもあるらしいんだけど」
イデア先輩の解説を聞いても、なんだかあまり現実感がない。だってオパールって言ったら、あの虹色で綺麗な宝石。タブレットを見る限り、地上に出ている部分以外は全てがキラキラしているのだ。つまり、
「い、いったいツナ缶いくつ分なんだゾ!?」
グリムの興奮した悲鳴に冷や汗が噴き出した。一体総額いくらなんだろう、途方もない数字が頭の中をよぎっていく。というか宝石や鉱物について疎い自分が想像するオパールと、目の前のこれはほぼ同じ。ということはどうあがいても市場に出回るほどのクオリティということになり……
「と、とりあえず体積割り出して……いやそんなマドルなんて低俗なもので換算できるレベルでは絶対に無くない……!? 最低でも国宝……いや天然記念物? よくわからんが世界規模で保護しないとやばいやつなのでは……」
いつも通りのイデア先輩なら「ヒェ
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チキン肌wwwこれぞマジモンのgkbrってやつですなwww」なんて言っていたかもしれない。そんな一周回って冷静な分析をしているあたり、自分もかなり動転してしまっているみたいだ。
「ぷ、
値段がつけられない……」
「……どうしますか、先輩」
比較的冷静なジャックは、カヴュ先輩にそう聞いた。先ほど「何があっても俺のもんよ!」なんて言っていた先輩だが、流石に面食らってしまっている。その証拠にさっきから全く口を開いていない。
「すまんジャック。前言撤回」
「え?」
「これ俺たちだけの秘密にしねえ?」
ゴーグルを外して額にひっかけた先輩は腰を下ろして言う。彼の言葉に、誰もが黙ったままだ。グリムは頭がショートしかけているし。
「冷静になってみろよ。どう考えても持て余すだろこんなもん。いや価値があるってのはわかるんだけどさ」
「か、価値があるなんてレベルじゃない! これ今世紀最大の発見な可能性だってあるワケで……拙者たちだけで日和ってる場合じゃ」
「日和ってんのは間違いねェよ。この島の知名度も上がるだろうが……残念ながら調査も発掘も取材もキャパオーバーする可能性が大いにある」
取材、という言葉にイデア先輩も言葉を飲み込んだ。そうか、多分自分達も「発見者はなんとナイトレイブンカレッジの生徒!」なんて追い掛けられるかもしれないわけで。まあ考えすぎかもしれないけど。
「すっげえ天文学的な確率で俺の魔法がイカれててオルトの分析が間違ってる……って可能性もあるじゃん」
「そうだね。僕が搭載してるのは最先端のものだけど、絶対ってわけじゃないんだ」
「
掘ってみるまでわからないってこと……」
「そ」
「俺は、それで良いと思います」
ジャックはそう切り出した。
「その。誰のものかわからねえっていうのもそうですけど。なんつーか……あれ、クジラの墓じゃないですか。勝手に暴くのもなんか悪いっつーか……」
「確かにそうだな……」
ジャックの言葉にデュースも頷いた。自分も大体同じ意見というか……こんな途方もない光景をいまだに信じられていないのもあるけど。
「グリム氏もそれでいい?」
ぐぬぬ、と頭を抱えていたグリムに、イデア先輩はそう語りかける。
「し、仕方ないんだゾ……オレ様は偉い親分だからな! 子分に従ってやる!」
「ありがとなーグリム。晩飯はツナ多めにしとこうな」
「ツナー!」
にゃはー! と飛び上がって喜ぶグリム。夕飯こそはメインを根こそぎ奪われないようにしなきゃな。
「じゃあデータは消した方が良い?」
「いや、別に良いぜ。時々皆で見返してニヤけたりしてーじゃん。それにオルトとイデアからデータ盗める奴なんかいねーだろ?」
心配そうなオルトにカヴュ先輩はそう笑った。イデア先輩は当然ですが? なんて得意げな顔をしている。なんだか楽しくなってきて、自然と笑いが漏れた。この場にいる六人と一匹だけの秘密ができたのが、なんだかかけがえのないもののように感じて……なんて綺麗なものでもないけど。例えばこっそりタイムカプセルを埋めたような、悪巧みをしているような。そんなちょっとだけ懐かしい気持ちになったのだ。そうしてみんなで笑い合って、その場を後にする。
「其は永遠詠唱以下略……っと」
カヴュ先輩は扉を開けるために使ったコインを元のゲームセンターのメダルに戻してポケットに収める。重々しい音を立てて閉まった扉に、ほんの少しだけ残念な気持ちがしないわけではない。
「……オルトは良いの?」
「うん! だって楽しかったし!」
でも、そんなオルトの言葉にその場の誰もが頷いていた。元々お宝があってもなくても、道中ワクワクしたのは間違いないのだ。
「まああとアレだな。あんな最高な
宝物、俺たちだけで独占するに限」
「カヴュ氏!!!」
「先輩!!!」
一人を除いて。