ディープ・ケイブ・アドベンチャー! 10



10 アイテムを所持していません▽



「これ、扉じゃないか!」

 皆が呆気にとられる中、デュースはそう大声で言った。曲がりくねって登った道の突き当たり。少し開けたそこは、オルトのスキャンによれば「不自然なほど垂直な行き止まり」。この場にいる誰もが期待する通り、大きな扉になっていたのだった。

「カヴュ氏、なんか合言葉とか無いんでつか? 意味のわからん伝説とかわらべ歌とか……誰かが肉を買ったとかどうとかみたいな……」

「無ェなァ」

「即答じゃん」

「でもこれ……鍵穴じゃないスか?」

 鍵穴? とジャックの指差す先を見る。確かに、装飾にしては不自然な穴が扉の真ん中に空いている。でも鍵穴というよりも何かをはめる穴のような感じだ。ちょうどコインのようなサイズで、何かよくわからない模様が刻まれている。

「力づくじゃ開きそうにないですね」

 扉を押したり引いたりしていたデュースはそうため息を吐いた。何かしらの仕掛けをクリアしなければ扉は開かないということで間違いなさそうだ。

「『お髭船長の冒険』みたいだ! 主人公が出会った青年が持ってたコインが宝のありかのキーになるっていうストーリーでね……」

 そんなオルトの楽しそうな言葉に、皆でカヴュ先輩の方を見る。この中で唯一そういうものを持っている可能性があるのは彼くらいのものだ。

「……あっ俺!? そんなキーアイテムは流石に受け継いでねえぞ!?」

 扉の穴を指で辿っていた先輩は素早く手を振って否定する。先輩の性格を考えれば、何か心当たりがあればこの扉を見つけた時点で声高々に主張していただろう。そもそも洞窟に入る前に言っていたかもしれない。

「本当にござるか? 胸に手を当てて考えても?」

「いやマジで……あ」

 イデア先輩の追及に文字通り胸に手を当てたカヴュ先輩は、しかし何か思い当たったのか、胸ポケットの中を漁る。皆の期待が高まる。

「持ってるじゃねえかカヴュ!」

 グリムはにゃっはー! と飛び上がる。それもそのはず、カヴュ先輩の手には金貨らしきものが握られていた。

「あーいやこれはゲーセンのメダル」

「なんでそんなもん持ってんの? 紛らわし……ってかそれ賢者の島の麓のゲーセンのメダルじゃん? 持って帰るのはマナー違反ですが!?」

 これが古き良きギャグ漫画だったら全員でズコー! とこけていたところだ。イデア先輩のツッコミももっともである。ジャックはやれやれとため息まで吐いているし……というか何でよりにもよってそんなものが今ポケットに入っているのか。

「店主に古くなったやつ譲ってもらったのよ。いくつかあるから持ち歩いてんだ」

 ぴん、とコイントスの要領でメダルを投げ上げてはキャッチしている先輩。まさかゲームセンターの量産品メダルが鍵になりでもしたらかなり、とてつもなく、ロマンに欠けるような。というかセキュリティに問題がありすぎる。

「オルト、この穴にちょうどハマる形ってわかるか?」

「もちろん! タブレットで表示したら良い?」

「おう」

 何をしたいんだか、と言いたげにタブレットをカヴュ先輩に差し出したイデア先輩は、は、と何かに気付いた顔をする。

「カヴュ氏まさか」

「俺のユニーク魔法で鍵を作りまァす」

 にやりと、今までで一番悪い顔をして、先輩はそう宣言する。その突飛な言葉に一瞬場が静まって、おお! と誰からともなく声が上がった。

「先輩のユニーク魔法って?」

「まあ平たく言えば金属をある程度操れるんだわ。結構魔力食うからあんまやんねえけど」

「この前王の財宝ごっこやってたじゃん」

「それはそれこれはこれ」

 イデア先輩の指摘を軽くいなしながら、カヴュ先輩はふう、と息を一つ吐いた。

「……其は永遠、其は栄華。讃えよ、我は其を統べる者。崇めよ、我こそ海底うなぞこあるじ燦めく十脚グリーディ・シャイニー!」

 パア、と彼の手元が輝く。さっきまでポップなアルファベットとウサギのマークが刻まれていたよくあるメダルは、古めかしい模様が刻まれたコインになっている。

「よし、上出来上出来!」

「何度聞いても厨二な詠唱ですわ……」

「テンション上がったろ?」

「ぐうの音も出ませんな」

 早速出来上がったコインを扉の穴へ嵌めようとする先輩。最初は全く期待なんかしてなかったお宝の気配に、ごくりと唾を呑んだ。

「あ、あの。それ本当に良いんですか」

 凛とした声が響く。声の主はジャックだ。

「いや……誰かのもんなら悪いことなんじゃねえか、って思って」

「ジャックは真面目なんだゾ……」

 水を刺しやがって、と言いたげに、グリムはカヴュ先輩の肩にしがみついたままブーイングを送る。グリムの言いたいこともわかるけど、ジャックの言い分も正しいと思う。勝手に合鍵を作られて宝物を盗まれるなんて絶対に嫌だし。

「あー……大丈夫だろ」

「何でですか」

「だってここ俺の島だし」

「あ」

「いやまあまだ長じゃねえけど。もし部外者の宝なら勝手に人の家に宝物隠してるってことだろ? んで、伝説通りヤシガニの宝なら俺のもんなのよ実質。英雄に退治されたのは俺の家系の始祖って話があんだわ」

「うわ出た神話陰謀論……」

 正論ではあるのに、スケールが大きすぎてなんだか暴論に聞こえてくるのは気のせいじゃ無いと思いたい。流石のジャックも顔を顰めてはいるが丸め込まれつつある。

「何があるかわかんねえけどよ。もし本当に金銀財宝があったらキッチリ島で話し合うことになるだろ。確実に歴史洗い直して出処がわかるまでは保留するから安心していいぜ」

 先輩はジャックの肩を叩きながら言う。そこまで言うなら問題ないだろうし、それにこの先に絶対お宝があるわけでもない。もしかしたらどこぞのお城みたいに古代の遺跡なんて可能性もあるわけだし。先輩はコインを扉の穴にはめる。

「まあ少しならポケットに入れてもわかんねえと思うけどな」

「先輩!」

 カチリ、と音がした。

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