ディープ・ケイブ・アドベンチャー! 07
7 ここから先は冒険です▽
「思ってたより普通なんだゾ……」
隣をぽてぽてと歩きながら、グリムはそんなことを言う。確かに洞窟の内部にはきちんと柵や照明が用意されている。特に鍾乳石があるわけでもないし、ちょっとしたアトラクション程度だ。でも洞窟内部を歩くという非日常を軽装備で楽しむことができるのだから観光客にとって退屈、というわけではないと思う。実際、洞窟に入る前のいかにも常夏の南国という雰囲気からは打って変わって静かでひんやりと肌寒くさえ感じられるのはかなり面白いなあと思う。黒っぽくて存外に滑らかな壁面に遠くから響く波の音。どこか怖いような、落ち着くような不思議な気分になる。
「言ったろ、サンダルでも歩けるところだって」
「でも良いですね、涼しいし、洞窟ってもっと準備がいるものだとばかり」
「良い子だなデュースちゃんは……!」
先頭のカヴュ先輩はデュースの頭を撫で回している。側から見ればただガラの悪い上級生に絡まれている可哀想な下級生に見えるのだが、デュースはとても嬉しそうにしている。
「オルトは何やってんだ?」
「このゴーグルを通して洞窟内をスキャンしてるんだ。3Dマッピングって感じかな?」
「室内しかやったことなかったからね。こういう複雑かつ広いところでもテストしとくべきじゃん」
「な、なるほど……」
ふと後ろの一団に目をやれば、そんな会話が聞こえてくる。オルトはふわふわと浮いたまま、ピピピ……と小さな電子音を鳴らしている。それにしても3Dマップを作成しているなんてすごいな、という小学生みたいな感想しか出てこない。どういう原理で可能なのか気になるけど、説明されたって一つも理解できなさそうだ。
「そういえばコウモリとかいませんね」
「入り口に生物避けの結界張ってあんだよ。昔はここを貯蔵庫にしてたらしい」
「そういう解説板立てた方が良くないすか、洞窟のでき方とかも」
「確かにそうだな……ジャックくんさんぐう有能じゃーん!」
後方から飛んできたジャックの指摘を、カヴュ先輩はスマホにメモを取る。ジャックが後ろの方じゃなかったらさっきのデュースみたいにめちゃくちゃに撫でられていたに違いない。
先輩、やっぱりちゃんとしてるんだよなあ。特に自分の島のことが関わると、先輩はかなり真面目というか大人な感じがする。いつもよりリーダーっぽさが増すというか……いや普段の先輩も十分ちゃんとしてるんだけど!
「まあ一番手っ取り早いのはミーハーホイホイアピールだろうけど……この島静かだし『知る人ぞ知る』って路線の方が成功するのでは? ってか広報どうなってんの」
「あー……マジッターのフォロワー数は島民より多いぜ」
「やっぱマジカメ映えは諦めるべきっすわそれ……っていうか島民ってギリ四桁とかじゃなかったですかね!?」
マジッターといえばマジカメと同じSNSだったような。写真よりも文字情報を主に伝えるサービスでイデア先輩は「いわゆるオタク向けですわ。キラキラに馴染めない隠の者向けとも言うが」って言ってたっけ。まあイデア先輩の言葉は話半分に信じるとしても、フォトジェニックとは別のパラメータでバズりそうな雰囲気だ。
「着いた着いた」
ふと、カヴュ先輩が歩みを止める。特に何か目立つものがあるわけでもないが、どうしたのだろう。
「島民以外にゃ隠すんだとよ」
そう言って、先輩は柵の端にマジカルペンを向ける。すると観光客向けのマップにはもちろん、今の今まで存在していなかった脇道が現れる。今まで通ってきた道よりも少し狭いけど屈まなくても通れそうなくらいだ。
「行くだろ、禁足エリア」
「も、勿論っス!」
「お宝見つけてやるんだゾ!」
「監督生が心配だしな」
「そう言ってジャック氏尻尾が動いてますぞw……っヒィ! そこまで唸るとは……」
「楽しみだなあ、冒険! お髭船長みたい!」
みんなそうワクワク感を抑えずに声を上げる。もちろん自分だって楽しみだ。なかなかできることじゃないし。順番に柵を飛び越えた。
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