ディープ・ケイブ・アドベンチャー! 06



6 いざ! 洞窟探検

 

「さて諸君、準備はできたかな?」

 わざとらしい口調でカヴュ先輩は言う。アトラクションの案内役キャストのようなセリフにぴったりな、まるで探検隊のような服装。大小のポケットがたくさんついたカーキ色の上下に太めのベルト。皆同じような格好に着替えている。ちなみにグリムは耳の部分だけ切り抜いたソーラ・トーピー探検家の帽子にライトのついたものをかぶっている。首に巻いたリボンも、今日だけはスカーフにチェンジ。彼が自慢する通りかなり似合っている。

「この帽子で大丈夫なんスか?」

 ジャックの指摘に自分も帽子を撫でる。グリムと同じようなソーラ・トーピー、決して落石から頭を守れそうなヘルメットではない。

「魔法で強化してるから安心していいぜ。ヘルメット以上に安全でよ。ま、洞窟もしっかり整備されててサンダルにアロハシャツでも見学できるレベルなんだが念のため貸すんだわ。ヘルメットよか軽いし視界も遮らねえし……大事だろ、見た目」

「つまり……気分?」

「そゆことー」

 確かにワクワク感が違うかも。普段着にヘルメットで入っていくよりもこんな衣装を着た方が明らかに楽しい。それに写真映えもするし、ここにケイト先輩がいたら皆で記念撮影なんかしてたかもしれない。あとでグリムの写真だけでも撮っておこうかな。バスケ部の試合で来れなかったエースにも送ってあげよう。

「なんか期待はずれっすわ……もっとダンジョンぽさがあると思ってたのに……」

「だから言ったろ、そりゃ重装備すぎるって」

 イデア先輩は先ほども海で活躍したゴーグルを手で弄りながら言う。アウトドア派ではないとはいえ探検には心躍るんだろう。いや、ダンジョンといえばゲームの醍醐味。序盤のレベリングからクリア後のやり込み要素まで。それをリアルに体験できるとなればテンションも上がるか。それに「オルトの新しいギアの性能テスト」とも言っていたし、難度の高いものを望んでいたのかもしれない。

「まあ今回ばっかりは禁足エリアの探索もオッケーが降りてる。卵とはいえ俺たち魔法士だしな」

「禁足エリアってそれ洒落怖なやつ? あとで長老から『何故あそこに足を踏み入れたんだ……!』って言われたり怪しい儀式でお祓いしたりとか……あ、もしやダイスロール必須なポイントがあったり」

 イデア先輩の羅列するよくあるパターンにデュースの顔がだんだん真っ青になっていく。まさかそんなことあるわけないじゃん、と思うけれど、こればかりはよくわからない。元の世界ではこういうところにはありがちだし……っていうかデュースとは入学して早々ファントムと闘ったこともあるし、あれより怖い目に遭うとも思えない。少なくとも人智の及ばない現象においては。ナイトレイブンカレッジはちょっと怖い人が多いので……。

「無ェよ、何勝手に人の実家にド田舎因習を生み出……あ」

 カヴュ先輩の言葉にほ、と安堵の息を吐いたデュースだったが、即座にピシリと固まる。その「あ」は心臓に悪い。しかもいつも割とヘラヘラしたカヴュ先輩がちょっと真面目な顔で考え込んでいる。

「…………ま、大丈夫か」

「全っっっっ然大丈夫ではないですが!?」

「説明してくれ先輩!」

「説明しろー!」

 イデア先輩とデュース、そして人知れずこちらの足にしがみついて震えていたグリムに詰め寄られて、カヴュ先輩は降参のポーズを取っている。イデア先輩は言い出しっぺのはずなのになあ。そう思いながらオルトとジャックに目を配った。

「【常夜の島 怪談】で検索する?」

「……頼む」

 収拾がつかないと思ったのか、ジャックはため息を一つ吐いて冷静にオルトに依頼した。

「【常夜の島 都市伝説】の方が出てくると思」

「知ってるなら話すんだゾ!」

「そうだそうだー!」

「わかった話す話す!」

 二人と一匹にもみくちゃにされつつあるカヴュ先輩は観念したらしい。というか最初から喋ればよかったのでは? と思わなくもない。呆れた表情をしているジャックもどうやら同じ意見らしい。

「いや別に怖かねえんだがな? ほら、『白夜の英雄トリックスター』に出てくるヤシガニの金銀財宝が今でもこの島の洞窟に隠されてる……って話なんだわ。んで、それを狙った海賊たちの亡霊が今でもうろついてるとか宝を盗ると呪われるとか」

「検索結果も大体同じだね。『お髭船長の冒険』の第一巻で出てきた宝物に呪われるってシーンも、この常夜の島の伝説がモチーフだって話があるんだ」

「十分怖いんですが?」

「そうですか? お髭船長の話のモデルならそこまで……」

「イデアは怖がりだなー!」

「いやこういう子供向けの話とかわらべ歌になってる話ほどヤバいってご存じない!?」

 とりあえずデュースは完全に恐怖よりワクワク感が勝っているようで良かった。グリムも煽りモードになっているあたり大丈夫だろう、多分。一方でイデア先輩はぶつぶつと独自の考察を展開している。先輩はいわゆるオタクと言われる人だけど、アイドルからオカルトまでなんていう守備範囲の広さには舌を巻く。これを本人に言うと『拙者を語るのにゲームと魔導工学を除外するとか監督生氏もしや拙者エアプですかー? いや拙者が攻略対象のゲームなんてクソゲーもクソゲーですがw』などと言われそうなので黙っておくとして。

「俺何回も探しに行ったけど何も無かったぜ。便宜上禁足エリアって言ってっけど島のガキの遊び場だしよ。無問題無問題!」

「探しに行ったんですか……」

 いくら先輩が多種多様な輝くものが好きだからといって、呪いや亡霊を無視して探検を決行するような人だとは思わなかったな。本当に怖いものなしだなこの人。

「じゃあ大丈夫ですね。行こうぜ」

「ジャック氏思い切り良すぎでは? む、嗅覚優れてるし機器察知能力はこの中で一番……更に腕っぷしもある……洞窟に慣れ親しんだカヴュ氏も良いがここはジャック氏に軍配が……」

「うし、この浮気者イデアちゃんを殿にして出発な。俺が先頭」

「ミ゛ーーッ! しょ、正気でござるか!? この貧弱の極み戦闘力皆無野郎を最後尾に!?」

「高性能探知レーダー付きゴーグル持ってオルトくん連れてる天才メカニックは貧弱では無いんだわ。あと単純に三年は俺とお前だけだろ」

「フヒ、そういうことならお安い誤用ですわー!」

 イデア先輩はカヴュ先輩のことを「褒めると扱いやすい」なんて言うけど案外どっちもどっちじゃなかろうか。

「アッでもオルトは拙者の隣でジャック氏が前にいると安心できるカナ……」

「もちろん!」

「っス。わかりました」

 僕は便りないんだろうか……と深刻そうに悩むデュースを宥めながら、カヴュ先輩の後に続いた。

prev next

back
しおりを挟む
TOP



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -