4 トロピカル・ランチ!
「ふなぁ
腹いっぱい、なんだゾ……」
ずず、とココナッツに刺したストローで音を立てながら、グリムはぽっこりと丸くなったお腹を撫でている。この小さい体によく入るなあと毎度思う。いつかかえるの王様よろしく破裂したりしないだろうか。
「美味かったか?」
そう言うカヴュ先輩はあぐらをかいてニコニコしている。こちらはまだ頬にいっぱいフルーツが詰まっているのでこくこくと頷いた。メインは慣れ親しんだ魚料理が主とはいえ、食べたことのない味付けや見たことのない魚がほとんどだったし、フルーツだって耳馴染みの薄いものばかり。残念ながら自分は食にうるさいレポーターでもなんでもないので「南国っぽい感じ!」だの「甘酸っぱくて美味しい!」だのという率直かつ語彙力ゼロ点なコメントしかできなかったけど。
「興味深い料理ばっかりだったなあ、僕、いつだって調べることはできるけど、実際に味のパラメータを見る方が重厚なデータになるしね!」
そうイデア先輩に似たギザギザした歯を見せて言うのはオルト。普段は口元を隠していることが多い彼だけど、今回のギアは目元が覆われている代わりに(でもゴーグルの下にはちゃんと丸っこい金色の瞳が見える)きちんと経口で料理を楽しむことができるらしい。いや、彼の言葉を借りるなら「味を数値化」しているだけかもしれないけど。それでも、いつも「僕は食べられないから」と言っているオルトと一緒に食事ができるのはなんだか嬉しい。
「美味かったっス。俺たち獣人にとってはスパイスの香りが少し強いけどすげえ食が進むっつうか」
そういえばジャックは料理が用意された部屋に入った途端尻尾を逆立てて警戒してたっけ。確かにちょっと独特の匂いがするけど、匂いを嗅いだ途端お腹が鳴ってしまうような香りだった。
「安心したぜ、口に合わねー奴もいるからな」
カヴュ先輩は部屋の隅っこに三角座りをしているイデア先輩の方を見る。ココナッツの果肉部分とビーンズスープしか食べていないような気がするが、そもそも先輩はかなり食が細い方だったはず。時々駄菓子で一食分を済ますなんて女子高生もびっくりの食生活をしてんだよな、とかカヴュ先輩が言っていたのも記憶に新しい。
「拙者、食事は栄養が取れたら良いと思ってるんで……ワイワイしながら
とか無駄だと思ってますしおすし」
「まあそんな考え方もあるわな、よっ効率厨
!」
「それ褒めてんの貶してんの!? カヴュ氏に貶されたら拙者のガラスのハートは粉々再起不能なんですが!?」
「大丈夫だよ、兄さんの心臓は筋肉でできてるから培養できるよ!」
なんだかんだ仲が良いよなあ、と誰もツッコミがいない対岸の会話を見ながら隣のデュースの方を見る。さっきから静かだし、もしかして料理が口に合わなかったのかな。でも彼の嫌いなピーマンは入っていなかったし……と恐る恐る声をかける。
「……母さんにも食べて欲しいな」
そう、しみじみとデュースが言ったものだから思わず吹き出してしまう。いや、彼としては至極真面目だしもちろん笑うようなことでもないのだが、トロピカルなジュース(特大のグラスにはハイビスカスの花までついている)を片手にそんなことを言うと、ギャップが凄くて笑ってしまったのだ。
「うわははは、いつか連れてきてくれよ! お前らの家族なら大歓迎!」
そんなデュースの肩をばしばしと叩きながらカヴュ先輩は呵々大笑。家族旅行でここに来れたらきっと楽しいだろうなあと思いを馳せる。うん、ちょっとハイソサエテイな旅行だ。
「まあ空港のある白夜の島からの定期船も週に一回だし半日かかるけどね……」
「イデアちゃんのマジレスが冴え渡るなァ!」
たはー、とこれも自虐気味に笑い飛ばすカヴュ先輩をよそに、自分もグリムにならってストローの刺さったココナッツの実を手に取った。