ディープ・ケイブ・アドベンチャー! 03



3 常夜の島

 

「監督生! そっちの部屋はどうだ?」

 常夜の島、リゾートエリア。二人に一軒の家が割り当てられているので、ホテルというよりは家だ。ドームのような形をした家にはベッドが二つ、ハイビスカスやストレチアのようないかにも南国! といった花がいたるところに飾られている。更にテラスにはハンモックまでついており、そこから海まで徒歩一分未満。カヴュ先輩は寂れた島なんて言ってたけど全然そんなことない。というかこんなに最高なリゾートの最高の宿をほぼ貸切させてもらって良いんですか!? と先輩の胸ぐらを掴みたくなるくらいだ。一泊の値段がいくらかなんて怖くて聞けない。

「特に変わらないよ」

「オマエたちの方が海に近い気がするゾ……」

 デュースとジャックの部屋に来て早々グリムはそんなことを言うが、自分とグリムの部屋(家?)とデュースたちの部屋は隣同士なので完全にそんな気がするだけである。

「まさか常夜の島に来れる日が来るとは思わなかったぜ」

「そんなに有名なの?」

 ちょっと感慨深そうなジャックに首を傾げながらそう聞き返す。この世界に馴染んできたとはいえ、まだまだ知らないことも多い。一般常識レベルの話だったりするんだろうか。

「有名っていうか……エレメンタリースクールで習うってだけだ。ほら、この島テッペンが開いたドームみたいになってるだろ? 元々大きい海底火山の火口部分なんだ。そこに海水が入って、高いところだけ島として残ってる。それが今いるこの場所。ドームのせいで日照時間が短いから常夜って名前なんだ」

「火口……いつか噴火すんのか!?」

 耳を押さえてびくびくしているグリムを撫でる。多分そんなことはないと思うけどな……いわゆるカルデラというやつだろう。正直水タイプのジムリーダーがいそうだなとか、赤い飛行機に乗るダンディな豚さんのアジトっぽいなとか思ったけど誰にも伝わらないので黙っておく。

「いや。死火山だ」

「二人とも詳しいね」

 それにしても二人の知識には舌を巻く。自分は小学校の頃習った社会のことを覚えているだろうか。それともちゃんと予習をしてきたんだろうか。自分もせめて調べてくるべきだったかな。

「有名な話があってな。この島には元々デカいヤシガニがいたっつう」

 教科書に載ってた、と頷くデュースになるほど、と一人納得する。確かに教科書に載ってる物語って何か印象に残るよね。グリムは相変わらず首を捻っているけれど。

「どんな話なの?」

「金銀財宝が大好きなヤシガニが英雄の宝物を奪って退治されるって話だ。まあ、よくあるやつだな」

「僕がやったのとは少し違うな……そのヤシガニ、宝物を奪ったんじゃなくて拾ったとか……」

「俺がよく知ってんのは絵本の方だからな。子供にもわかりやすくなってんじゃねえか」

 確かジャックには幼い弟妹がいたから、絵本の読み聞かせとかをやってたんだろう。硬派な見た目の割に理想のお兄ちゃん像だからちょっと微笑ましい。

「悪役だけどちょっと茶目っ気があるんだ。セリフも印象深くてさ」

「『これが人生だ! 友よ!』」

「ふなーっ!?」

 デュースの話に割って入ったのはいつの間にかこの部屋に入ってきていたカヴュ先輩。いかにも悪役、感情がこもりすぎたそのセリフにグリムは全身の毛を逆立てて飛び上がってしまった。

「『白夜の英雄トリックスター』だろ? ここらの海域の伝承一纏めにしたやつだ。ま、聖地はほとんど白夜の島に揃ってるが……ああ、白夜の島ってのは船で半日くらいのでけえ島でよ。高級リゾートに白い砂浜、珊瑚礁に雨林と南国といえばってやつが全部揃ってんだわ」

 白夜の島? と首を傾げる前にカヴュ先輩はそう補足する。その表情がちょっと悔しそうなのはその島のせいで常夜の島が寂れている(先輩談)からなんだろう。なるほど、こっちの世界にもそういう島があるらしい。そういえばウィンターホリデー中に学園長が行ったのもその島なんだろうか。陽気なアロハシャツと共にバカンスができる島なんてそう多くないはずだし。

「あ、そうそう。荷解き終わったか?」

 オレ様を驚かせやがってー! と青色の炎を吹いているグリムをものともせず(マジカルペンを手に持っているし耐火魔法でも使ったのかもしれない)カヴュ先輩はそうこちらに問うた。

「万全っす兄貴!」

 兄貴って……とデュースの呼び方に少し引いているジャックも短く頷いた。そういえばカヴュ先輩を兄貴と慕うブルーノとデュースは仲が良い。小耳に挟むだけであることないこと含んでそうな武勇伝を吹き込まれていたし。

「ぼちぼちメシだぜ」

「やったー! メシだー!」

 メシの二文字にグリムはぴょこぴょこ飛び跳ねている。今日は昼食を取って島の観光、その後にメインの洞窟探検だったっけ。この島に来ることが決まったその日の夜に「旅のしおり」と称した書類ファイルがスマホに送られてきたのだ。先輩はてっきりその日のノリで行動しようぜ! というタイプだと思っていたので少し驚いた。そうか、あの人勤勉なイグニハイド寮生だったなあと思っていたらグリムが意外すぎる、などと失礼なことを言っていた。本人に向かって言わないようにしなきゃ。

「スケジュールに変更はナシ。変更あったらスマホに送っとくから見とけよ」

 こちらをビシ! と指差してカヴュ先輩はウインクをする。こう、キザというかクサい挙動をこうもナチュラルにできるなんてすごいな、いろんな意味で。そんな感想はひとまず飲み込んで、飛び跳ねるグリムが調度品を壊さないように眺めていた。

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