ディープ・ケイブ・アドベンチャー! 01



1 南国への誘い

 

「イデアよぅ、週末暇?」

「な、内容次第……」

 進路を塞ぎ壁に側頭部をつけるとかいうイカしたティーネイジャーしか出てこないドラマみたいな壁ドンをして、カヴュはそう聞いてきた。同じ学年同じ寮で割と付き合いが深いといえどこういう振る舞いがナチュラルにできてしまう彼のことを未だ理解できないでいる。付け焼き刃なキザというか、傲慢というか……ともかく、彼は頼り甲斐のある良い奴なのに「悪い奴じゃない」とか「良い奴なんだけど」とか言われるのはこういうところなのだ。まあ、僕がなんとか喋ることのできる数少ない相手なんだけど。

 彼は大抵上機嫌だから、彼の提案が僕にとって良いものか悪いものかはわかりかねる。というか予定を言わずに暇かどうか聞いてくるの、本当に勘弁してほしい。そんなんレギュレーション違反じゃん。禁止する法律が制定された暁には然るべき罰を受けてほしい。まあカヴュはこちらの「内容次第」という返事に気を悪くするような奴じゃないので情状酌量するまでもなく無罪だけど。

「俺の島来ねえ?」

「カヴュ氏の……って言うと常夜の島?」

 この学園にいるとあまり珍しくもないのだが、彼はとある島の王子だ。王子という表現を使うととカヴュ氏は「ただの小島の長だっての」なんて言うが、それでもその社会的地位はかなりのものである。で、常夜の島というのは彼の言葉をそのまま引用するならば「ド田舎で交通の便が最悪だし近くにでけえ島があるせいで主産業の観光もまあまあキツい島」らしい。最初は彼のオーバーな自虐ネタだろうと思ってたんだけどデータベースを参照すれば本当にその通りなのだから驚く。島の成立や形状が特異的なせいで地理の教科書には絶対に載っている島なのだが、そこへ行くには船か飛行機をチャーターせねばならない。ああいや最近は定期船ができたんだっけ。それでも近くの島から半日はかかる。更に天候が一度荒れ始めたらかなりの長期間島の外には出られないなんて始末。余程金と時間がある奴か、どうしても常夜の島に行きたい奴じゃないと行かないのだ。まあ今はインターネット上に動画も溢れているし、なんならマップでも開けば島内を探索できる。このご時世にわざわざ行く奴はよほどの物好きだ。

「ウチの島、洞窟くらいしか誇れる観光資源が無ェじゃん。で、ガチ研究者とかじゃなくても見て回れるようにしたらしいのよ。その試遊っつうか」

「……それ、拙者の適性Fでは?」

 どう考えてもイデア・シュラウド向きではない。だってそうじゃん、コミュ障インドア派旅行はVRで済ませますな人間相手に寄越す案件ではないだろ。まあカヴュ氏は優しいから誘ってくれたのかもしれないけど……道中へばるのが目に見えている。

「カヴュ氏の後輩の三人組とか良いんじゃなく?」

 オクタヴィネルの一年に、彼の舎弟……じゃないや、昔馴染みの三人がいる。常夜の島の周辺海域出身のサメの人魚の三人組だ。カヴュのことを兄貴なんて慕ってるし全員厳つくてイグニハイドに立ち入らせようものならパニックが起きかねないような見た目だけど、まあ彼に言わせれば良い奴らしい。時々食堂で彼を囲んでいる様子なんてどう見ても集会ですお疲れ様です。

「あいつらまた問題起こして週末は奉仕活動なんだわ。それに普段あの島に馴染みが無い奴の方が良いだろ? あと暗い中のお前の髪って絶対綺麗……じゃなかった危ね、体力ない奴とか、普段アウトドア趣味のない奴でも大丈夫ってのを確認したいらしい」

「隠せてませんが?」

 ああこいつそういえばこういう奴だったわ、と苦笑いみたいな息を吐く。初対面で僕の手を掴んできたり、この呪いの象徴みたいな髪がいかに美しいかをご丁寧に歌にして伝えてきたりする。頼り甲斐のある兄貴分みたいなツラしてるけど僕からすれば同じ穴の狢どころかあと数歩でやばい変態なのだ。ナイトレイブンカレッジが共学で僕が女だったらマジで事案だっただろうな、いやそうでなくともアレなんだけど。

「オルトくんも誘っててさ。学園長も鏡使わせてくれるし移動コストゼロだぜ」

「外堀を確実に埋めてくるじゃん……」

 ヤンデレスパダリかよお前! というツッコミはさておいて。オルトの新しいギアの性能確認にも良いかもしれない。防水機能は装備してるけど完全防水かつ海水となるとちょっと不安だし。あ、オルトが泳げるようにすれば水中のいろんな映像も撮れる……改造しといて損は無いかも。それにまあ、常夜の島に興味が無いというわけでもない。一度は行ってみたいけどめちゃくちゃ遠いし縁がないと諦めてたくらいで。拙者こう見えても知的好奇心の塊なので魔導工学以外にも興味があるんですわ。

「……オルトの機能テストも兼ねて良いなら」

「よっしゃ決まりィ! 土曜の朝迎えに行くから準備しとけよ」

 そうハイテンションに言いながらこちらを指差し、ウインクまでしてみせるカヴュ。なんでああいうキザで砂を吐きそうになる動作を日常的に振る舞えるんだろう彼は……まあいいや。部屋に戻ったら早速オルトのアプデを始めよう。

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