敬愛すべき我が寮長!



 ぽぽぽ、と連続した軽快な電子音。誰からのメッセージかなんて画面を見ずともわかる。ここまで連投してくるのは敬愛すべき我が寮長だろう。

[カヴュ氏]

[大変申し訳ないんでつが]

[お願いがございまして……]

 内容は察しがつく。今日は入学式。引率役として招集されたはずのイデアから連絡があったということは、訳あって彼が入学式会場ではなく自室あたりにいるということ。つまり、彼は出席すべき入学式をすっぽかしている。しかも今回はオルトに言われて頑張って出る、と震える膝と声で宣言していたのに、である。真面目な他寮長には直前で怖気付いたなんて思われてそうだが、多分あれは誰かに何かを言われたんだろう。それか緊張しすぎて体調不良か。まあどちらにせよ致し方ない。

 多少無理なものであろうと、なんだかんだ言いながらオルトのお願いなら聞いてしまうのがイデアである。例えそれが対人コミュニケーションおよび衆人環視が大の苦手なイデアに入学式へ生身で出席してほしい、なんてものであっても。実際昨晩までは出席するつもりだったみたいだし、「小粋なトークとかできないんですけどどんな話すれば良いんですかね」「そもそも今年イグニ生が誰もいないという可能性は無い?」なんて完全にテンパった質問を俺にチャットで投げ掛けていた。

[お前のタブレット持って式に行きゃいい?]

[カヴュ氏]

[dクス……]

[命の恩人感謝永遠に……]

 彼からのメッセージが遅いのはきっと言葉を悩んでいるからだろうなと、先んじて提案する。あいつのタブレットは勝手にふわふわ浮かんでどこへでも行けるが、それをしたくない程度には参ってるってことか。

 

 ◇◇◇

 

「イグニハイド寮はこっちだ、案内すっから着いて来てくれ」

 ざわり。新入生にちょっとした緊張が走る。まあそうだよな、勤勉の素質を見抜かれた奴らが集まる寮に俺の見た目はどう足掻いても似合わない。というか俺がここにいるってことは寮長だと思われてるってことか。そりゃビビるわな。自分の外見には絶対の自信があるとはいえ、こういうときだけ線の細い美少年のままだった方が良かったよなあと思わなくもない。

「あ、俺は寮長代理な。本当の寮長はこっち」

「……どうも。僕は基本的にタブレットこの姿なんで……あ、基本的に連絡事項はスマホなりメッセージで済ますんで、よろしく」

「生身の寮長はSSRだからなぁ」

 空中浮遊するタブレットを掲げて新入生にアピールする。なんだかんだ魔導工学が得意な奴が集まる寮だし、タブレットで参加するのも悪くねえと思うんだよな。一番イグニハイドっぽいパフォーマンスだろ。そして案の定新入生の目もキラキラしてるし。

「あら、また甘やかしてるの?」

 抑え気味とはいえ凛とした声に隣を向く。式典服というフードを被った服装なのに、その美しさは有り余る。流石はトップモデルだぜ。顔も良ければ美意識も高い。端から端まで「美」で構成されてんだから。 

「ヴィル。別に甘やかしてねぇよ、緊急事態に伴う代理だって」

「緊急事態ねえ。次期王なんでしょ? アンタ。いつか国民を飼い殺しにするわよ」

「人には得手不得手があんのよ。学園長は何も言ってねえし……それにイグニハイドらしくていいだろ?」

 呆れ気味の女王様ははあ、とため息を吐く。いろいろと言いたげだが、全部言葉になっちゃいない。

「リーダー適性は俺の方が高いがよ、ウチの寮においてはアイツの方が上。心底惚れ込んでんだわ」

 ヴィルからだけでなく何度も言われてきたことなので先手必勝とそうコメントする。イデアが駄目なのはちょっと対人コミュニケーションが苦手って点だけだ。それだけで「カヴュが寮長やった方が良い」なんて言われるのはイデアに対する不当評価でしかない。

「そ。まあアンタたちがいいならそれでいいんだけど」

 そんな掴みどころのないことを言ってヴィルはさっさと寮生を先導して行ってしまった。

「よ、よくヴィル氏とあんなに話せますな……?」

「そうか? 悪い奴じゃねえよ」

「それはわかってるんですけど……」

 カヴュ氏の思う悪い奴って何なんだよ、と読み上げずにテキストだけで表示するイデア。器用なんだか不器用なんだか。

「あー……ええと。新入生はまずカヴュ氏……この寮長代理に着いて行って学内と寮の簡単な説明受けて。その間にこっちで部屋割りとか準備しとくんで」

「ま、気楽に聞いてくれよ。質問も自由に。俺がなんでこんなにイカしてるか、とかでも良いぜ」

「あ、カヴュ氏の発言は話半分でいいからね」

 タブレットから発される冷静な言葉にちょっとばかし口を尖らせる。まあ良いけどよ、こんだけ言えるなら多分イデアも本調子になってきたってことだろうし。

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