収集癖は誰にでもある



「トレイ、それ貰っても良いか?」

「……このコランダムのことか? 別に構わないが……」

 錬金術の授業も終わりに差し掛かった頃。トレイは首を傾げながらもカヴュへコランダムといってもルビーやサファイヤを含むものではなく主に魔法薬学に用いる「彗星コランダム」であるを差し出した。これは今日の授業で作成したものである。片付けに入っているトレイもカヴュも既に合格の評価を受けている。彗星コランダムは調製方法が確立されており、成功すれば固体になるし失敗すれば固体にならない、という評価しやすい物質なのである。それに加え、今までやってきた実験方法の総まとめのように様々な工程があるため、三年生ともなれば二年生までの復習として実験を行うのが毎年恒例であった。

「確かに綺麗だが……何かに使うのか?」

 彗星コランダムはその名の通り、きらきらした水晶のようなものである。更に調製者によって細かな色味が異なる代物で、一見すれば宝石のようにも見える。が、しかし残念ながら安価に取引されるものなので宝石のような価値も無い。綺麗だなあとそのまま眺めるくらいしか使い道がないのである。「記念に持って帰りたい奴がいるのなら持って帰っても良い」というのが錬金術担当教師のクルーウェルの説明だったが、殆どの生徒がデモテーブルに提出していた。

「キラキラしてると欲しいだろ?」

 さも当然、とカヴュは言う。常々キラキラしたものが好き、と公言するだけはあるなあ、とトレイは思う。カヴュという奴は金属や宝石、果てはイルミネーションまでという幅広さでとにかく「光るもの」が大好きなのである。寮の自室を電飾まみれにしてイグニハイド寮を停電させたこともあったらしいな、とトレイは思い出す。

「そんなもんか? まあお前が嬉しそうだしそれで」

「ほら、お前のは俺のと違って遊色に周期性があるし形も円に近いだろ? 性格出るよなぁ、こういうの」

「確かにそうだな……」

 カヴュの指摘にトレイは少々驚く。というのも、カヴュといえば「細かいことは気にするな!」という、比較的大雑把な部類の人間なのである。まあ誰しも好きなものに対しては細かくなるのも当然か、自分だって同じ原材料でも用途によって産地を使い分けたりするし。自らの趣味であるお菓子づくりに照らし合わせ、トレイは納得していた。

「お、何じゃ何じゃ? 品評会か?」

「リリア。いや、俺が欲しいっつったらトレイがコランダムくれたからよ。性格出るよなって話」

「ふふ、ではわしのもやろうか」

 自慢したくてたまらない、というような表情と声色で、リリアは彗星コランダムを差し出した。

「こりゃまた……」

「どうやったらこの形になるんだ……?」

 二人の困惑も当然である。通常、彗星コランダムは極薄い発色を伴うものであり、形も単結晶もしくは群晶などが多い。それが、リリアが自信満々に差し出したものは彼の瞳や煮詰めている木苺のジャムのような色をしていて、綺麗なブリリアントかっとなのだ。さっきクルーウェル先生が驚いてたのはこういうことだったのか、とトレイは気付く。こんな見た目、教科書の「コラム:彗星コランダムの個性」にも載っていない。

「ちょちょいのちょい、じゃよ。ま、わしの人生は濃ゆいからの」

「同い年だよな?」

 入学してからこっち何度目かの疑問およびツッコミがトレイの口から飛び出す。いつもならその流れに乗ってくるはずのカヴュはリリアから受け取った結晶に心を奪われているようで一言も発していない。

「本当にもらっていいのか?」

「良い良い。どんなに綺麗でも彗星コランダムとしての価値しか無いんじゃし」

 さも憧れのおもちゃを買ってもらったばかりの子供のようなきらきらした瞳で、カヴュはリリアに尋ねる。リリアといると誰も彼も子供になってしまうようだ。本当に何歳なんだろうか……と遠い目をするトレイを前に、リリアとカヴュは嬉しそうに笑い合っていた。

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