同じ穴のなんとやら



「イデア……はいねェな」

 C組は確かこれから魔法史の授業だったよな、とカヴュは教室を覗き込む。別にイデア本人を探しているのではなく、あくまで彼の操るタブレットの方。今は昼休み、授業開始までまだ十分はある。少し早すぎたか、きっとタブレットもどこかで充電中だろう。素直にオルトを探した方が早かったか。まあ特に用事があったわけでもないんだけど、とカヴュは素直に首を引っ込めた。

「あれ、カヴュくんじゃん!」

「うお、お!?」

 背後からの声にカヴュが肩をびくつかせる。上背のある彼がそんな挙動をするのはどこか面白くて、声をかけた張本人ケイトはけらけらと笑っている。

「そんなびっくりすることないじゃーん! あ、オレってそんなにレアキャラだったり?」

 へにゃへにゃと人畜無害に笑う彼に、カヴュは顔を引き攣らせる。カヴュの交友関係は広い。同学年はもちろん下級生、他寮の生徒からも頼られることもままある。だが彼にも不得手なタイプというのが存在する。いつでもキラキラした明るい奴……いわゆる陽キャとされる、例えば今目の前にいるケイトのようなタイプ。それを誰かに言えば「同族嫌悪?」なんてコメントを受けるが当たらずとも遠からず。カヴュは元々あまりアッパーな方ではない。この兄貴分らしい豪快な性格も幼少期から形成してきた外行きのファッションのようなもの(これを言ったとて彼と仲の良いイデアでさえ信じないのだが)。更に言えば、彼は自分より目立つ奴が苦手だ。ただただ単純に、苦手なのだ。もちろんケイトが良い奴ということは百も承知だ。明るくてお人好し、気遣いもできるなんてカヴュ自身の理想にさえ近い。

「っそ、そうだな! 確かにあんまし会わねえよな!」

「そうかもそうかも! 記念に一枚撮っとく?」

 ハッシュタグは#昼休み終わる #ぴえん #実はレアキャラ!? とかでどうかな? と言いながらスマホを構えるケイト。そう、この軽さこそカヴュの理想なのだが、どうしても相容れない。「ベラの幼魚がヒラムシに似てるってだけで捕食者プレデターは忌避するだろ!?」などと以前イデアには説明したがいまいち伝わっていないようだった。つまるところ、彼が苦手なある人物とケイトの振る舞いが似ているというだけなので、ケイトに全く罪はないのだ。それを面と向かって説明するわけにもいかないのでカヴュはうわははは、と笑って誤魔化している。

「あ、俺SNSに写真あげんのはNGでよ」

「えっ、やっぱり防犯上とかそういう……?」

「違う違う、なんか落ち着かねえってだけ」

「ストーリーもダメかな?」

「…………手だけなら」

「ヤバ、ネットリテラシー徹底しすぎじゃん!」 

 ウケる、と笑うケイト。カヴュが写真のアップロードを断っているのは何も「仮にも王子的地位の人間だから」というわけではない。単純に、ずっと昔からインターネットに浸ってきたせいで忌避感があるだけだ……というか幼い頃からインターネットに浸りクローズドなサイトに動画を投稿しているので、単純に身バレが怖いのである。それもいわゆる歌い手。それなりに再生数もあるタイプの。一年の頃から親しくしてきてかつアングラ文化に詳しいイデアにさえもそれが発覚したのはつい半年ほど前の話である。

「あっじゃあカヴュくんがオレのこと撮ってよ! #実はレアキャラ!? #写真NG #たまには他撮り みたいなタグでさ!」

「ケイちゃんがいいならそれでいいぜ」

「もっちろん! ってかその呼び方可愛くてイイね!」

 今時流行りのポーズ(さよならデクラレーションという曲のポーズらしい)をして見せるケイトを画面に収めるカヴュ。

 内面を曝け出せば似ている二人なのだが、そこに至るにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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