7-2 クエスト代理
「カツアゲされるかと思ったぞ」
「同じギルドの仲間にやるわけねーだろ」
ちょっとツラ貸せよ、なんて強面に言われたら誰だってカツアゲなんじゃないかと怯えるだろ。ジュビアがよく言っているようにガジルは自らの顔の怖さをイマイチ理解していないらしい。いや、無意識にそういうちょっと治安の悪い言動をしてしまうのか。そんな考察はさておくとして。キッチンからギルドの隅のテーブルに連れて来られたところだ。席にはレビィとリリーがいる。二人は先程の私とガジルのやりとりを聞いていたのか、困ったように苦笑い。
「カツアゲだろ」
「カツアゲだったね……」
二人の指摘にガジルは居心地悪そうにどかりと腰掛ける。かのガジル・レッドフォックスといえど三対一では分が悪いらしい。いや、レビィ相手だというのもあるか。
「そ、そうだ! アルテちゃんは週末暇?」
「暇だが……ああ、クエストの代理か?」
「そうなの! 頼めるかな?」
彼女の魔法は固体文字。さまざまな属性のものを瞬時に出すことができるので、いろんな依頼に対応することができる。例えば子供を楽しませるためのパフォーマンスだったり、演劇の裏方だったり。「魔水晶があれば可能だけど頻繁に使うものでは無いので魔導士に依頼する」なんてクエストは案外多いので、レビィはそういう依頼をよく受けていた。魔水晶もピンキリだが、それなりに高く小さな村では買えないこともある。それに比べて魔導士への依頼であれば報酬をその村の名産品にしたりすることも可能なので、比較的コストはかからない。それにそういう依頼は大抵昔から同じギルドや同じ魔導士に当てて出されることがほとんど。いわゆる「昔馴染み」というやつだ。
「北の方にウスユキ村っていう小さな村があるんだけど、そこのお祭りの裏方を毎年頼まれててね。本当は今年も行くつもりだったんだけど……」
「行って良いワケねーだろ」
「長距離の悪路を移動することになる。避けるべきだろう」
「って感じなんだよねー」
あはは、と笑うレビィ。自分の体のことはよくわかっているだろうし、彼女が行こうとしていたのならきっと余程の悪路というわけでもないのだろう。でも心配するガジルとリリーの気持ちもわかる。彼らがいればどんなモンスターが現れても安心だけど、いつどんな不調に見舞われるかわからないし。
「良いぞ。裏方っていうのは……」
「氷の竜を倒したっていう劇をするんだけど、その演出が主かな。ほら、アルテちゃんならブリザードも氷柱もお手のものでしょ?」
なるほど。それなら私向きだ。私に代理が務まるものかと不安だったが、求められるのが氷だけなら大丈夫そうだ。
「裏方全般だから他にも出店の売り子したりするけどあんまり忙しくないよ。お祭りもそんなに大きい規模のものじゃないし」
レビィはそう言いながら、鞄から紙を取り出した。祭りのチラシみたいだ。
「報酬はお金じゃなくて期間中のごはん食べ放題なんだけどね。何よりアルテちゃん向きだなって思ったのがね……ほらここ!」
「アイス大食い大会……!」
レビィの指先を読み上げる。そう、なんとアイスクリーム大食い大会があるのだ。優勝賞品とか参加費とかそういうことはどうだって良い。大食い大会ということは、アイスクリームをいくら食べても良いということだ。何を隠そう、私は氷菓の類が大好きだ。魔力源という意味だけでなく、単純に、嗜好品として大好きなのだ。出かけたらついジェラート屋さんを覗いてしまうし、家にはアイスクリーム専用の冷凍庫まである。うわあ。涎が出てきた。もちろんレビィの頼みだし断るつもりもなかったけど、俄然やる気が湧いてきた。しかも期間中はごはん食べ放題。チラシを見る限り川魚料理やシチューがたくさんある。つまり美味しいものばっかりってことだ。
「ここ、自然に氷の魔水晶が産出するし酪農も盛んだからアイスクリームが名産なの。ね、良いでしょ?」
ウィンクしながら言うレビィに、こくこくと頷いた。知能がかなり下がっているが美味しいものには目がないので仕方がない。
「去年行ったが良い場所だぞ。気候も良いし景色も綺麗だ」
「うん! 旅行だと思って楽しんで! 劇の内容とか村のことはこっちで纏めとくから移動中に……あっ」
途端にレビィの顔が曇る。何かまずいことでもあっただろうか。
「えーっと……汽車で半日かかるんだよね……」
「きしゃではんにち」
滅竜魔導士の例に漏れず、私も乗り物酔いをする。滅竜魔導士としての強さの象徴なんていうけど正直つらいものはつらい。ガジルの顔を伺えば、彼は去年のことを思い出したのかそっぽを向いてしまった。
「だ、大丈夫だぞ。依頼はちゃんとこなすぞ」
ちょっと気まずそうなレビィに親指を立ててそう言う。が、当然声は震えている。大丈夫、大丈夫だ。美味しいもののためなら汽車で半日くらい……なんとか……。
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