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「……えっ?」
スマシくんを取り落としそうになりながら思わず聞き返す。通話の相手は兄者。今日は比較的暇があるということで、兎丼と通信をしていたのだ。ちょっとばかり兄者の様子がおかしいので、ときどきソリティアさんも口を挟んでいるのだけれど。
『だからよ、お前は……キング様の妾になるんだろ……』
兄者のこんなに沈んだ声初めて聞いたし、後ろの方では堪えきれなかったらしいソリティアさんの笑い声がする。もしかして酔っ払ってるのかな。お酒はほどほどにって言ってたけどやっぱりおつまみの類は作って来ないほうが良かったのかもしれない……じゃなくて、兄者の発言についてだ。何がどうなってそういう結論になっちゃったんだ。悪いことするし大雑把だけどそこまで素っ頓狂な人じゃなかったはずなのに!
「え、えーと……それはないんです、けど」
『本当か? キング様に黙るように言われてるとかじゃねェか? お前の能力のこと黙ってる代わりに、とか、うお゛お……』
『ふ、っくふ、ははは、っふは……!』
「ソリティアさぁん! 笑ってないで止めてくださいよぉ!」
もう大変、阿鼻叫喚ってやつだ。こんなことなら一回兎丼に戻って兄者を説得した方がいいかもしれない。いやまだあと一週間は兎丼には戻れないし期間も延びちゃうかもしれないんだけど。というかこんな状況で兄者は大丈夫なんだろうか。兄者と出会ってからこんなに離れるのは初めてのことだし、仕方ないのかな。どうなんだろう。仕方なくはない気がする。
「本当に大丈夫だよ兄者……普通にお料理してるだけだし…」
『個人的に呼び出されたりは? お酌とかしなくていいんだぞ』
もはや尋問だ。まあでも自分が兄者の立場だったら同じようなことしてるかも。過保護だとは思わなくもないけど。
「お話は何回かしてるけど……」
『ドボン! 結婚式すんのって本妻だけだっけ!?』
「兄者! ドボンさんを巻き込まないであげてください兄者! そういうの全ッッッッッッッッ然無いんですよ兄者!」
兄者の暴走が予想以上だ。こんなことなら留守電じゃなくってちゃんと通話するべきだったかもしれない。いや見送りに来させて貰えなかった時点でもう分かりきってたのかもしれない。兄者の好物もう少し作ってくればよかったかなあ。弁明するのにもう暫くかかりそうだ。完全に面白がっているソリティアさんも笑ってないで手伝ってくれたらいいのにー!
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