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「おやすみなさーい」

 寝室には誰もいないけれど、枕元のあかりを消してそう呟く。兎丼への留守メッセージは送ったし、明日の着替えも用意したし、もうあとは休むだけ。窓からは月の光が漏れていて、遠くから宴会の声が聞こえてくる。うるさいのは慣れっこだ。お仕事は昼過ぎからなのでゆっくり休めそうだなあ。目を閉じる。

「……って寝れるわけなーーーーい!」

 がばりと起き上がって一人叫ぶ。深夜なので気持ち控えめで。枕を引っ掴んで、掛け布団の上をごろごろと左右に転がる。意味のない行動をしなきゃどうしようもない。時間が許せば鬼ヶ島マラソンでもしたいし、仕込んできた明日の分のごはんをお腹いっぱい食べたいくらい。

 キングさまとお話しするまでは良かった。あの人表情は目以外見えないし目も遠すぎて見えないから電伝虫越しに話すのと実際に会って話すのは変わらないし。でも、でも! あんなことを言われてしまうなんて思ってなかった! 好ましい、好ましいって何!? わかんない、何もわかんない! 今度こそ私のくだらない話を聞いてくれるのかはっきりできたと思ったのに、もっと大きい問題が出てきてしまった。十人分のお造りを盛り終わって一息ついてたら追加で百人分頼まれた、みたいな感じ。自分でもこの例えがよくわかってない。そもそもスマシくんをくれた理由とか聞きたかったのに! だって小型で回線も安定しないとはいえ電伝虫が安くて大量に用意できるわけがないじゃん。もしできるなら海賊団全員が一つずつ持ってるはずだし。そんなものをわざわざ私に渡してくるのは絶対に何かあるじゃん……はっ、今の今まで浮かれてたけど私もしかして監視されてる? どうしよう、絶対そうだ。一応古代種だし、秘密の共有とかじゃなくて変なことしないように見張られてるんだ……鬼ヶ島じゃなくて普段兎丼にいるから、スマシくんを渡したんだ……うわーん舞い上がってた! そうだよ! たまたま似てただけの小娘に何かあるわけないじゃん! 夢のプリンセスストーリーとか恋愛小説だけの話だよ! 

「うう……好ましい、とか……何……」

 足をバタバタさせる。もうどうしていいかわかんなくなってきた。いや元からわかんない。何もわかってない。じゃあなんで空飛んで屋上に行ったんだろうとかそういう期待が残ってないわけじゃないけど、キング様は私のことを監視してるだけだ。真面目な方だから単純な監視の形じゃなくて私の話を聞いてくれるんだ。っていうかそもそも私なんかにキング様が好意(恋愛感情じゃなくて親愛とかそういうのも含める)を持つとかあり得ないじゃないですか! 夢見すぎだよ過去の私ー!

「ね、寝よう。寝ないと死ぬって兄者も言ってたし……」

 深呼吸を三つ。厨房で覚えなきゃいけないこともまだあるし、本当に寝よう。おやすみなさい、ついでに私の淡い恋心も永遠の眠りに就くが良いのです。おやすみなさい!

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