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「おいキングどういう了見だこれはァ!」

「うるさいぞクイーン」

 さも「おれは何もやっていない。勝手に騒ぐな黙れ」と言いたげな視線でこちらを一瞥するキングの野郎。そんな奴に対して額に青筋が浮かぶのも仕方ないことだろ。

「料理人が足りねェってのは聞いてたんだがよ! なんだって"おれの"管轄の兎丼から召集してんだテメェは!」

 鬼ヶ島の料理人が足りないという話は小耳に挟んでいた。おれにとってもおしるこが飲めなくなるのは一大事なんだが、それはそれとしてそういう人員の調整は面倒だし大看板の仕事でもないので適当に真打ちあたりに投げていたワケだ。料理人なら誰だって良かったんだ、下っ端兵士にさせるよりは絶対にマシになるからだ。本人が料理しなくても指示に一人入るだけで変わるだろ。で、そういやあの話どうなったかなと件の真打ちに聞けば「キング様が『おれがやる』っておっしゃってたので……」などと言う。面倒な仕事をあいつ自らやりやがったぜハッピー♪なんて思ってたのも束の間、おれの許可も得ず兎丼の料理人を呼び寄せてやがる。何度だって言うがあそこはおれの管轄だ。全員がおれの部下だ。それをおれの許可もなく勝手に。鬼ヶ島じゃなかったらダンスバトルでも仕掛けてたぜこの野郎。

「お前はその料理人のことを知っているのか」

「は?」

 何を言ってやがる。戦闘員ならまだしも何でおれが末端まで知ってる必要がある。ああいや。彼女は確か……二、三年前、囚人どもに与えているきびだんごを改良した女だ。看守長から三つも食えば一日働けるようにできたとかで報告があったんだわ。褒めてやろうとしたら自分じゃなくうちの料理人が、と言ってたっけな。まさかあんな小娘が、と思った記憶がある。

「きびだんご改良した女だろ?」

「ハッ」

 鼻で笑いやがったこいつ。明らかにおれを馬鹿にしてやがる。喧嘩なら買うぞ屋上呼び出しか? お?

「自分の部下と言うならしっかり把握しておけ」

「何なんだよお前は! ってかなんでお前がおれの部下のこと知ってんだよおかしいだろ!」

 これは紛れもない越権行為だ。殴りかかってないだけおれは偉い。そもそもこんな大所帯で料理人のこと把握してるとか頭がイカれてやがる。

 あ、アレか? こいつその女に入れ込んでやがるのか? 自分の天才的ひらめきに恐れ慄きながら得意げに見下してくる視線を嘲笑ってやる。さてどんな女だったかな、思う存分揶揄ってやーろっと♪と手元の臨時異動通知を見る。

「…………」

 絶句である。まだ十代じゃねェか。お前娘でもおかしくない年齢の女に入れ込んでんの? いやそれヤバくね? おれたちは海賊で、好きな女を無理やり攫ってくるくらいのことはまあ海賊倫理の範疇には収まる。「そんなに良いオンナだったのかよ」と笑い合うことさえある。けれども、けれどもやはり超えちゃダメなラインは確実に存在する。いや。いやいやいや。やーい拷問好きの変態ロリコン野郎だのと返す刀で言ってやっても良かったが流石にドン引きだ。世界マッドサイエンティストランキング(おれ調べ)上位に食い込むこのクイーンでも引く。ロリコンは洒落にならんだろ。いやそもそもお前自分の身長把握してる? ほとんどぬいぐるみみてェなサイズのオンナノコに何ができるってんだ。

「……頭に電極ブッ刺せば異常性癖ロリコンは治せるぜ」

「汁粉に溺れて死ね」

「人の気遣いを虚仮にしやがってェ!」

「じゃあ餅喉に詰まらせて死ね」 

「変態クソ野郎がよ……!」

 こっちは真面目に心配してやってるってのに。かの四皇幹部、それも右腕がロリコンなんていろんな問題があるだろ。ハクに傷が付く。馬鹿がよ。プライベートは勝手にしろとカイドウさんは言うがこれはヤバいだろうがよ。

「お前も何とかって花魁に入れ込んでるだろうが」

「小紫たんはアイドル! 推しと恋愛感情は同列じゃねェんだわわかるかキングさァん!」

「知らん」

 いつもおれは冷静、クール担当です、と主張する声色本当にどうにかなんねえかな。薬でも盛ってトンチキなハイトーンボイスにしてやろうかな。

「もうじき船が来る。くだらん言いがかりだけならおれは行く」

 無駄な時間を過ごした、などと捨て台詞まで吐きやがったキングは背を向ける。本当にお前気に食わねェわ。マジで毒でも仕込んでやろうかな。

「……あ?」

 っていうかアイツ直々に迎えに行くわけ? 幹部も幹部の大看板が? ただの料理人を? 

「"ガチ"じゃん……こわ……」

 やっぱ電極ブッ刺すべきだろこいつ。

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