09



「緊急開催!!!兎丼幹部会議!!!!!!!!」

 大声でそう宣言するダイフゴーに呼び出された看守長や副看守たちは揃ってため息を吐いた。金色神楽から一週間。祭りの余韻も抜けてきた頃合のことだった。

 正直内容はわかっているし、何ならこれは問題の解決策を導く「会議」ではなく紛れもない事実の再確認であり、半ばどこにも出せない愚痴のようなものである。それがわかっていながら、ババヌキもソリティアもドボンも集合してやったのだ。絆が強い、というよりは彼らにも多少関係のあることであったし、同僚のダイフゴーに関しては心中察して余りある。まあそれと、普段それなりに悪ぶっている男がこうも半泣きで取り乱しているのが面白かった。というかそれが三人の心情の大半だった。

「議題は」

「シャロについてェ!」

 聞かなくても良いだろと全員が思いながらもしょうがないなと口に出したドボンに対して、全てに濁音がつきそうな勢いで言うダイフゴー。シャロというのはこの兎丼囚人採掘場の料理人であり、他でもないダイフゴーの妹分。先日いきなり大看板のキングに呼び出され看守たちを巻き込んだ大騒動になったのも記憶に新しい。シャロが実は悪魔の実の能力者、しかも動物系ゾオン古代種であることがバレてしまったのではないかと看守長副看守長連名で訴状(という名の命乞い文書)を、時に頭を抱え時にこれからを考えては気絶しながら書き上げたのだ。

「無事帰ってきたからいいだろ」

 ババヌキの言う通り、彼らの心配をよそにシャロは無事にこの兎丼へ戻ってきた。しかも特に凹んだ様子もなく、むしろ今までよりも楽しそうな雰囲気さえ纏っていることが多い。最悪首だけになって返ってきたうえ自分達も処刑とか、良くて海楼石の手錠付き、なんて想像をしていた彼らにとっては願ってもない結果である。しかしながらダイフゴーは完全に情緒不安定になってしまっている。

「なんか……最近嬉しそうで……髪留めもおれが見たことないやつしてるしよォ……」

 先程までの半狂乱な様子からは打って変わり、めそめそし出したダイフゴーにソリティアはふ、と少しだけ笑いを漏らした。囚人たちに対してはいつも威圧的だというのに見る影もない。

「新しいの買ったんでしょ? っていうか妹分のアクセサリーを把握してるのってどうなんだ……?」

 今までもシャロのことになると多少見境なくなるな、とか、あんなに「兄者兄者」と慕ってくる妹分がいたらちょっとくらいそうなってしまうかも、とか思っていたらこれである。絶対に妹離れをした方が良い。ドボンの口から出かけた言葉はしかし、カバが口を閉じてしまったので誰にも聞こえなかった。

「年頃だしよ、独り立ちじゃないが……そんな感じなんだろ」

 残念ながらカバの口を開けさせるものがこの場にはないので、僅かにオブラートに包んでババヌキは言う。

「しかも持ってなかったはずのスマシで楽しそうに喋ってるし……あとやけに鬼ヶ島からいい食材が届いてて……」

 が、そんなアドバイスどこ吹く風。ダイフゴーは広いローテーブルに突っ伏してべそべそと呟いている。

「シャロちゃん本人に聞きなよ。髪留めのことも含めてさ」

「聞いたけど教えてくれねェんだよォ! どんな会話したかって何回聞いても『例え兄者でも秘密です!』って言うしよォ……」

 三人(ドボンは未だカバが口を開けてくれないため二人と一匹ではあるが)は顔を見合わせる。シャロ本人の口から語ればダイフゴーも納得しただろうに、これではどうしようもない。彼女の性格を考えればキング様から口外しないように言われたのだろうな、とソリティアは考える。キングに呼び出されたというだけで気絶していたような気の弱い少女だ、まともに彼と話すことができたかさえ怪しい。

「シャロ呼ぶか」

「駄目だ駄目だ! シャロは明日分の団子とお汁粉の仕込みがやっと終わったとこなんだよ! もう寝る時間だっての」

 無理やりカバの口を持ち上げてなんとか発言したドボンに対し、ダイフゴーは食い気味に否定する。団子を丸めたり汁粉を煮込んだりする作業はプレジャーズあたりにさせるのが兎丼囚人採掘場の常だったが、最低限下準備だけはシャロがやっているのだった。看守たちの食事作りが忙しくなければ最初から最後まで厨房にいることも少なくない。シャロは生真面目というか、自分の仕事に関しては頑固なところがあるのだ。

「過保護だなァ……」

 ババヌキとソリティアは顔を見合わせ、ダイフゴーの前へす、と酒を出した。もう既に飲んでいるのだろうが、シャロを呼びたくないというのであれば酔い潰して寝かせてやるのが現状の最善策である。問題の先送りには変わりないが。

「シャロちゃんはキング様に好かれたんだよ。ほら酒でも飲みな」

「良いじゃねェか、幹部に好かれりゃ切り捨てられることも無ェ」

「それはそれで嫌だァ……」

 管を巻いているダイフゴーに、三人は目配せをし合う。よし、この男の話は適当に流して酔い潰そう。もちろん兎丼囚人採掘場の料理人であるシャロのことは三人にも無関係ではない。しかし三人にとっては彼女が無事に生きて帰ってきただけで十分なのだ。シャロの髪留めが違うだのなんか楽しそうだのと気にしているのはダイフゴーだけ。しかもその理由もおそらく「妹分が離れていくようで寂しい」が八割というところ。

「シャロ……おれァ……」

 アルコールに半ば溺れながらぐずぐず言葉にならない文句を言っているダイフゴーに、その場にいる誰もが本当に面倒だな、と数度目のため息を吐いたのだった。

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