氷菓よりも冷たい評価



 大丈夫、死んでいない。死んでいない。

 そう言い聞かせながら一歩後退る。私ではこの場を好転させることはおろか悪化させることすらできない。四皇を前にして私の存在など瓦礫や塵芥にすぎないのだ。彼女の気紛れで簡単に吹き飛んで散るだけ。で、あるならば極力安全に離脱するしかなかった。彼を見捨てるつもりはなくても、包帯の一つも持たずこの弱さでは彼を助けられるわけがないのだ。死ぬわけにはいかない。ページワンくんが死ぬわけがない。彼の隙ができたのならば、即座に逃げる。彼の言葉を脳内で繰り返してやっと足を動かした。喉がひりつく。自分の行動が正しいのかどうか、これが現実かどうかを問う声が頭蓋の中に反響する。私にはこれしかできない。医務室に行って、ありったけの医療器具を持ってきてそんなものでどうにかできる傷かどうかすらわからないけれどそれから、それから。

「っは、通信、通信ページワン様、戦闘不能。ビッグマムに、倒されました麦わらの一味は依然生存、うるティ様が追っていますが同じくビッグマムの妨害を受けています

 バオファンが聞いているかどうかわからない。各地で諍いが怒っているのだからこっちだけにかかりきりになるわけにもいかないだろう。そもそもこんな情報聞いたところでそんなことあるわけないと一蹴されてしまうかもしれない。普段の私でもそうしただろう。いまだにこんなのタチの悪い夢か幻覚じゃないかと思っている。そうであったらどんなに良いか。

 誰の目にもつかないように脇の部屋へ、そこから反対側の廊下へ抜けて、やっと息を吐いた。廊下を駆ける。周囲から聞こえる剣戟や銃弾の音のおかげで足音は目立ちそうにない。

「っ、う」

 蹴破られた障子戸に足を取られる。ずてん、と顔から転んだ。ちゃんと痛いんだから、ああやっぱり夢じゃないんだなと思う。そんな古典的な確認をしてる場合じゃないし、痛覚のある夢を見る自分のことすら理解できてないじゃないか。痛みのついでに視界が滲む。違う、違う。何もできなかったと泣いている暇はない。今何もできないのなら、将来自分ができることを探すしかないじゃないか。

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